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なぁ兄貴、オレ知ってたんだぜ、アンタがオレに触れられる度に鳥肌を立ててたこと。
世界を彷徨いはじめてすでにかなりの日数が経った。
手持ちの金も尽きかけて、野宿でひたすらにモンスターを倒す日々が続いていたある日のこと。
「おい」
小高い丘の上からモンスターを探していたククールの髪を、横に立って反対側を見ていたマルチェロが振り返りもせずにぐいと引っ張った。
思い切り髪を引っ張られ、後ろに倒れそうになる体をなんとか支える。
ここで怒鳴ったところですっとぼけられるのがオチなので、ククールはぐっと怒鳴りたい衝動を押さえて振り返った。
「・・なんだよ」
「あれを見ろ」
マルチェロが指差す方を見れば、かなり遠くにいるはずなのにはっきりと見える、大きなドラゴン系のモンスターがいた。
ああして堂々といるということは・・・。
「あのモンスターを倒すと結構いい金になるぜ」
やっと宿屋に泊まれる!
興奮したククールは、ついマルチェロの腕を掴んだ。
「・・・金?大した額にはなりそうもないが」
「あいつらモンスター硬貨っての持ってて、それを売るんだよ。あいつ強そうだしきっと金貨だ!」
「ほぉ」
なにやら考えているらしいマルチェロの横顔を見る。
見つめつつ、先ほどから感じている違和感の正体にククールは頭を巡らせた。
はっと気付いて目を見開く。
不自然にならないように細心の注意を払いつつ、兄の腕から自分の手を離した。
その間も見つめ続けていた兄の顔には、嫌悪や不快な点は見当たらなかった。
お互いのポーカーフェイスを見破れないような仲でもない。
ふっとマルチェロがククールの方へ首を向けた。
「何を見ている」
「別に何も。で、どうする?まさか天下のマルチェロ殿が怖くなって逃げ出すとか言い出さないよな?」
ククールの挑発には乗らずにマルチェロは言った。
「戦力の計算をしていた。町も近いことだ、遠慮せずに呪文を唱えてもらおうか」
「へいへい回復ね」
「攻撃しても構わん」
「余裕があったら」
「逃げても構わんぞ」
「結局いらねぇってことかよ!!」
叫んだククールは、兄の顔を見てそのままの体勢で固まった。
マルチェロはそんなククールを無視して、そのまま高らかに笑いを漏らしながらモンスターの方へと歩きはじめた。
「私はすでに命令できる立場ではない、お前の好きにしろ」
「・・・その割にはいつも命令口調じゃねぇか」
鳥肌どころか、笑ってる。
あのマルチェロがオレとの会話で普通に笑ってる。
ククールは自分のテンションが沸々と上がるのを感じた。
自分の前を灰色のマントを翻らせて、マルチェロが颯爽と歩いている。
その姿に気付いて、モンスターが大地を揺らしながら近づいてきた。
近づくたびに大きくなるその姿も振動も、ククールは全く気にならなかった。
固まっていたとは思えない敏捷な動きでマルチェロの横に並ぶ。
「オレはいつだって好きなようにしてるさ。とっととやっつけて町行こうぜ!」
にっと笑顔を向ける弟に、マルチェロは苦笑を返した。
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