熱々アイスクリーム
「いい加減それ脱いだら?」
「・・お前は脱ぎすぎだ」
すでに暑苦しい燕尾服を脱ぎ捨て、白い素肌を汗に光らせているククールを見ながら、マルチェロは苦々しげにため息を吐いた。
西の大陸の端にある、山脈にくぎられたプライベートビーチ。
ククールは大荷物を背負いマルチェロを引きずるようにしてここに来ていた。
白いパラソル、デッキチェア2脚、小さな丸いテーブル、それに一番重かったクーラーボックス。
マルチェロは青すぎる空を見上げて、またため息を吐いた。
聖堂騎士団服ではないが、詰襟にズボンではここは暑すぎる。
「だってあちーんだもん。兄貴も脱げよ、見てるだけで貧血起こしそう」
白いパラソルが似合わない兄に笑いかけ、ブーツを脱ぎ捨て空に高く投げる。
波打ち際に小さな水音を立ててブーツが着地した。
「もー最高!これで水着の女の子なんかいたらもっといいんだけど」
ズボンの裾を膝下まで折り、やっと一心地着いたククールは嬉しそうに海を見つめている。
マルチェロもそんなククールから視線を引き剥がし海を見た。
太陽の光を受けて波がきらきらと輝いている。
見渡す限りの空と海、それに踏み心地のいい砂浜。
潮風が吹くたびに何故か懐かしい思い出が甦りそうになる。
だからだろうか、眩しすぎて目を開けていることすら辛い。
眉を顰めているマルチェロをちらりと見て、ククールはクーラーボックスを漁りだした。
「そのままじゃ本当に倒れちまうぜ、せめて冷たいもんでも食えよ」
ほら、と言ってこれまた眩しい笑顔でククールが差し出したのは、ピンクのコーンアイスだった。
「・・・いつの間に」
「そりゃもちろんこっそり仕入れにいったんだよ今日のために」
更にずずいっと押し出されたアイスはすでにマルチェロの鼻先にある。
周囲の空気が熱すぎるせいでアイスからは冷気の煙が上がっていた。
「子どもの食べ物だな、お前が食べればいい」
「オレとっくに成人してますけどー」
「精神年齢の話だ」
「それだったら兄貴の方がよっぽど子どもじゃねぇ?」
兄弟の応酬の間で、アイスは我慢できずに溶けはじめていた。
つぅっとコーンからククールの肘まで、一直線にピンクの線が引かれた。
「うげっ、兄貴が駄々こねるからアイスが溶けちまったじゃねーか」
「駄々をこねたのはお前だろうが」
マルチェロは流石に暑くなったのか、上着を脱いで袖を捲くった。
白いシャツが汗で体にくっついている所を見ると相当我慢をしていたらしい。
ククールがじっとマルチェロの動作を見つめている間に、アイスはどんどんと溶けて机の上に小さく丸い池を作りはじめている。
「おい、いい加減食べないとなくなってしまうぞ」
ついでとばかりにシャツのボタンも3つ外して胸元を開けたマルチェロの言葉に、はっと我に返ったククールはピンクの池を見てため息を吐いた。
「あーぁ、ここのアイスは本当にウマイのに・・まいっかまだあるし」
何個買ったんだ、とマルチェロは言おうとして止めた。
ぺろっ
ククールはまずべたべたになった掌を丁寧に舐めた。
次に肘から上へピンクの線を辿る。
最後に、アイスにかぶりついた。
「うひー、冷てー!でもウマイ!」
ククールは溶けて柔らかくなったアイスを大口でばくばくと平らげた。
きーんと頭に走る痛みに耐えつつ、冷たくなった唇を舐めながらマルチェロを見た。
「兄貴も食べたくなった?」
「まぁな」
おっ、とククールが驚いた間に、マルチェロが机に身を乗り出してククールに口付けた。
ひやりと冷たいククールの舌を絡めて甘酸っぱい唾液を飲み込む。
キスに夢中になってしまったククールは条件反射のようにマルチェロの首に腕を回した。
「これより甘くないのを貰おうか」
ククールの唇が熱を取り戻した所で、マルチェロは少しだけ顔を離して囁いた。
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