半分は優しさで出来ています





「ごめんなさい」

ククールはがばりと身を起こすとベッドから素早く下りて床に頭を擦りつけた。

「・・・」

「いやホント、マジでごめんなさい、勘弁してください」

素っ裸で深々と土下座をする弟を見て、マルチェロは苦々しげにため息を吐いた。

「優しくしてくれなんて頼んだオレがバカでした、もう言わないからこれからはいつも通りでお願いします」

「・・いい加減土下座は止めろ、気持ち悪い」

「っていうか寒いから奥詰めて」

ククールは先ほどと同じ素早さで布団の中に潜り込んだ。
マルチェロは無言で壁の方へと寝返りをうった。

「おーい、怒ってる?」

「・・・・・」

「だからごめんってー」

ぴったりと背中に張り付いているククールを、マルチェロは石のように固まって無視をしている。
ククールはしばし無言でマルチェロを抱きしめていたが、小さくため息を吐いた。

「だって、まさか本当に優しくされるとは思わなかったからさ」

「自分から言っておいていざ優しくされて逃げるとは何事だ」

怒っているのではなく傷ついているような声の響きに、ククールは一瞬笑いを堪えるのに必死になった。
ここで笑ったら間違いなくベッドどころか部屋から追い出されちまう。


マルチェロに抱かれるのは好きだ。
手荒な愛撫も嫌いじゃない。
ただ、もう少し優しく、恋人同士がするような愛撫が欲しいと思っていたことも確かだ。

前回終わった後に、ぽつりとそんなことを漏らしたのがいけなかった。




「えっ、ちょっ、待てって!」

宿を取ってさぁ寝ようという時、めずらしくマルチェロがククールに誘いかけた。
というより襲い掛かった。
それだけならマルチェロの機嫌が良くない時などにはあることだったが、その日はどちらかというと機嫌が良さそうに見えていたのでククールは心底驚いていた。

ククールの体が一瞬にして強張る。
もう修道院の頃とお互いの全てが変わっていると頭ではわかっていても、体はまだあの頃を覚えている。

マルチェロは弟の強張った体をベッドに横たえた。
しかしそれ以上は何もせずに、ただ髪をいじったり頭を撫でたりしかしない。
不審に思ったククールが固く閉じていた目を開くと、兄が優しい目で自分を見つめていることに気付いた。

「どっ、どーしたんだよ一体」

動揺がそのまま言葉になったが、マルチェロは答えずにゆっくりとククールの服を脱がし始めた。
よくわからないが、とりあえずやることはやる気なんだな、と理解したククールは兄の服のボタンに手をかけた。
二人共無言で服を脱がしあい、裸になったところでマルチェロはようやく口を開いた。

「ククール」

「ん?」

「今日だけだと思え」

「へ?」

意味が掴めないでいるククールの目蓋に、マルチェロはそっと口付けた。
いつもとは違う雰囲気に、ククールは今までにない緊張を感じた。
何が起こるのやら・・・。


それはすぐにやってきた。

「っう・・?んんっ!?」

舌がククールの口内を撫でるように愛撫している。
その間にマルチェロの手はククールの感じやすいポイントをゆったりと指の腹で撫で付けていく。

「むっ、んぅっ、うっ・・・!」

時折強く押されては、その度にククールの体がのけぞる。
ククールは焦らされているのとは違う、優しい手つきに混乱した。

「兄、アニキ!」

セックスの最中だけはなるべく名前で呼ぶよう気をつけているのも忘れて叫んだ。
マルチェロはその声が聞こえなかったかのように手をククールの中心に伸ばす。

「ちょっ、・・・っつ・・」


ククールはやっと気がついた。
兄は前回ククールが言ったことを覚えていて、かつ実践してくれているのだと。

「まっ、あっ、やめっ・・・うぁっ」

嬉しいという気持ちよりも先に本能が頂点に達して、ククールは声にならない悲鳴を上げた。




結局マルチェロは最後までククールを無視して優しく抱いた。
無視している段階で優しいのかどうか疑問だが、動きだけは今までにないほど優しかった。
「だからさ、最初に優しくするって言っておいてくれれば心の準備も出来たし、もっと余裕のある感じで出来たのに」

「優しくされるのに心の準備が必要か?」

「えーっと、いるんじゃないでしょうか」

「安心しろ」

マルチェロはやっとククールの方へ寝返りをうった。

「次からは予告してやる」

そしてにやりと意地の悪い笑みを浮かべて、また壁に向き直った。

「最初に今日だけって言わなかった・・・?」

「忘れた」

こういうところはオレの悪影響じゃないだろうか、ククールはこっそりため息を吐いた。
でもまぁ嫌がらせにしろまた優しくしてくれるって言うんだから。

「優しいお兄ちゃんで嬉しい限りだよ」

嫌味もこんくらいにしておこう。

 

 

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