やっぱりなるほどね

※パラレルです。

 

「なるほどぉぉぉおぉぉぉ!!!」

バンッゴッ、バンッ

「矢張、ドア壊したらホント怒るからな。」

「見てくれよこれ!」

書類から目を離さずに呟く成歩堂と、ドアが壁に当たって跳ね返りそのまま閉まるという芸当をやってのけた矢張は古い友人だ。 小学校からの付き合いで、俗に幼馴染というものにあたる。

「ほらほら!見ろ!今すぐ見ろ!」

書類の上に新聞の切れ端を押し込んで成歩堂の後頭部をぐいと新聞に近づける。

「いてぇ刺さった!」

「そこまで尖ってねぇ!今ので首痛めたよぼくは・・・。」

ため息を吐きながら一応新聞を手に取る。 矢張は目をキラキラさせてデスク越しに成歩堂の表情を伺っている。
新聞には、眼鏡を掛け金の髪を一つにまとめた理知的な美人が写っていた。 名を華宮霧緒と、これまた顔に似合った貴族的な名が載っている。 その横の見出しには。

「アイドルの遺品売却、オークションで・・・3億ぅ!!?」

「だろっ!?すげぇだろぉ!!?だからオレは決めた!次のターゲットは!!」

矢張はびしっと成歩堂に指を突きつけた。

「このカワイコちゃんだぜ!!」

 

 

「お前、一応幼馴染であるぼくに、わざわざ通報されたいわけ?」

「なっ、何言ってんだよ成歩堂ぉ!お前だから話したんじゃねぇか!」

成歩堂が大学に入った頃、矢張は何もしていなかった。女性を追いかけること以外は。 中学を卒業してからはバイトをして日々を凌ぎ、借金を背負った彼女のために実家から大金を借りそして彼女に逃げられ実家を勘当。 ますますその自由人ぶりに磨きがかかっている、と成歩堂は思い、危機を感じていた。

「オレが大泥棒、清水の長次郎親分に弟子入りしたってことをよ!」

事件の陰にはやっぱり矢張、自分が感じていた危機がまさに今降りかかろうとしている。 成歩堂は感情を込めずに矢張に視線を送った。

「泥棒で有名だからって威張ることじゃないだろ、むしろ威張るな。」

「ばかっ!お前はあの人のスゴさを知らないからそんな事言えるんだ!ともかくオレは大泥棒を目指してこれから修行に励むぜ、応援よろしく!」

びっ、と親指を立ててウィンクをした矢張に、今度ばかりは応援できない成歩堂は、捕まらないようにね、とだけ呟いた。

 

 

こうして泥棒修行が始まってから六年余りが経ち、成歩堂が弁護士として働き始めた頃、矢張は大泥棒の一味として世間を騒がせていた。 決して人を傷つけず、余ったお金を人にばら撒く「お騒がせ泥棒ヤッパリ」として。
矢張はやはりドアが外れる勢いで事務所に入ってくるなり成歩堂に抱きついた。 笑顔を満面に浮かべた矢張を見るのは実に六年ぶりだったのだが、成歩堂にその年月を一切感じさせなかった。

「さすが親友!オレは嬉しいぜ!!」

「はぁ?」

「だってよ、お前がわざわざ芸術学部から弁護士になったのって、オレのためだろ!」

「勘違い、どんだけ勘違いだ、絶対違う、そしてどうしてそう思えるんだ。」

即答の後、成歩堂は矢張を押しのけソファにドカッと腰を下ろした。矢張も自信満々の顔で対面に座る。

「だって弁護士ってのは警察や検事とかってのと戦うんだろ?ってことは警察の敵!そしてオレの味方!」

「ぼくは無実の人の味方であって、泥棒の味方では断じてない。」

滅茶苦茶な理論に語尾を強調して返す。低い声の成歩堂にそれでも矢張は笑顔で続けた。

「オレ今度一人立ちすることになったんだ!親分に認められたんだぜ!スゴくね!?」

「うんすごいすごい、ホントすごいよお前は色んな意味であと人の話聞けよ。」

「でもやっぱり一人は不安だろ?」

「そうだね、一人で法廷に立つってのはぼくでも不安だからね。もういい?」

「やっぱり隣に信頼できるヤツにいてほしいよな!?」

「うん、それはそう思うね。だから早く帰れ。」

「だから成歩堂!今度の仕事の手伝い、任せられるのはお前しかいないんだ!!よろしくぅ!」

「・・・はぃ?」

「だーかーらぁ!今度の盗み、お前にも手伝わせてやるよ!」

「やだ。」

成歩堂はキッパリ断るとデスクに戻った。矢張よりも高くなった目線でキツく睨む。

「僕は幼馴染の矢張と友達で、お前が人を殺したって言われても、ぼくはお前を信じる。」

成歩堂は息を吸い込んだ。

「だけどぼくは犯罪行為に加担する気は一切ないし、そんなこと勧める奴は友達じゃない。」

じっと矢張を見つめる。これまで色々迷惑をかけられてばかりのかけがえのない古い友人も、じっと成歩堂を見つめていた。

「成歩堂ぉ・・・オレ、」

沈黙が二人を包んだ。矢張がゆっくり顔を下げた。肩から力が抜け、ガクリと前のめりになる。

「もう、お前以外に頼れるヤツ、いねぇんだよ・・・初仕事でしくじったヤツは厳しい制裁を受けるキマリだ。オレ一人じゃきっと失敗する。・・・ホントはわかってんだ、自分のウツワのデカさなんてよ・・・。」

成歩堂は何か言いそうになるのをグッと堪えた。ここで矢張を甘やかしてはいけない、自分にも彼にも良くない。頭の中でこの言葉を何度も唱える。

「足抜けすんのも同じでさ・・・きっぱり抜けるには一人立ちでもしねぇとムリってワケ。だから、オレ、どうしても成功させるしかねぇんだよ・・・。」

駄目だ駄目だ、きっと嘘だ。この男に何度騙されたことか。 迷い始めた成歩堂の心を見透かしたように矢張がガバッと顔を上げた。

「頼むよ成歩堂!オレ、この仕事を最後に泥棒から足抜けしてぇんだ!!・・・オレにチャンスをくれ・・・!!」

「う、うぅ・・・嘘じゃないよね?」

成歩堂はほだされた。矢張の目が瞬時に輝く。

「おぉ!オレがお前にウソついたことなんてあるか?ねぇだろ!」

「いやいやいや、あるだろ、それもかなり」

「そうだっけ?まぁ今回は間違いない!本当だぜ!オレを信じろ!」

信じる、という言葉に滅法弱い成歩堂は、うっかり頷いていた。

「やったーーーー!成歩堂!マキちゃんの次に愛してるぜ!!」

やっぱり矢張、成歩堂は結局こいつには敵わない、と脱力した。
六年ぶりとは思えない程自然に会話が進み、そしてそれは成歩堂にとって最悪の形で締めくくられた。 刑事事件を扱う成歩堂が予想以上に現場慣れしているのを良いことに、今後矢張は何度も成歩堂を巻き込みに来るのである。

07/08/21

続く、かも・・・?

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