目覚め

 

 

はめずらしく車に乗って学校に向かっていた。
父親と家を出る時間が重なったからだ。

おかげで、1時間目にある英語の小テストに備えてゆっくりと勉強ができる。

は助手席でほくほくしながら、頭上にあるライトを付けて教科書を開いた。



あと3キロ程で学校に着く辺りで、急に窓を叩かれた。
集中して教科書を読んでいたは、びくりと肩を震わせると横をふり返った。

その時ちらりと、止まった車達と赤い信号を見た。


「跡部!」


外には、中腰で窓を覗き込むようにして歩道に立っている跡部がいた。
狭い道路なので歩道との距離がほぼない。

眉をしかめて口をへの字に曲げて、苛立っている雰囲気はすぐに伝わってきた。

が慌てて窓を開けると、朝から低く通る声が車の中に流れ込む。


「おい、半ドアだぜ。ちょっとドアから離れろ」


は急展開について行けず、ぼーっと跡部を見つめていた。
窓のすぐ傍にいた跡部がドアをすばやく開ける、外の空気が入ってきたかと思うと勢いよくドアが閉まった。

バンッっと大きな音がの体に響いた。

半分眠っていた頭がはっきりとしていくのを感じる。
流れの止まっていた血が体をめぐっていく。

 

――結構力入れて閉めたんだけど


はまだぼんやりとした頭で、しかし目を見開いて跡部の腕を見つめた。
細いように見えてやはり筋肉が付いているのだ。

「危ねぇだろこのバカ、気をつけろ」

跡部は馬鹿にしたように言い、覗き込んでいた窓からひょいと顔を上げると、の顔を何も言わずに見つめた。


ほんの一瞬、でも随分と長い時間、二人は見つめあった。

 

そして信号は青に。

車は走り出してしまった。


「あ、跡部!ありがと!」


は窓から首を出して叫んだ。

長い髪が風を受けて顔にまとわりつくのが邪魔でしょうがない。

は跡部に聞こえたかどうかいらいらしてしまったが、ぐんぐん後ろに遠ざかる跡部は応えるように軽く手を上げてから、車と同じ方向に歩き出した。


はそれを見るとほっとして首をひっこめた。
シートに深くもたれて息をつく。


ん?


は自分の鼓動が、いつもよりだいぶ速い速度で鳴っていることに気がついた。

朝からあんなフェロモンばらまかれた日には誰だってどきどきする。
は少し笑って教科書を閉じた。


ついでに目も閉じてしまうと、深い呼吸をするように閉じられた、ドアから入ってきた跡部の香りがふわりと鼻を掠めた。

そうして自然にふわりと浮かんできた感情にはぎょっとすると、苦笑しながらふっと息を吐いた。

 


――好き

 

 

 

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