雨降って
駄目だ。限界。
「あの子達が・・・いきなり、蹴ってきたからカッとなって・・・・」 あー、あんでこんな言い訳みたいな事してんだろ私。 じわりじわりと視界が歪んで、するりと冷たい感触が頬を伝ってぽたりと落下した。 「蹴られた?・・今押さえてる腕か?」 宍戸は声を固くして言うと、私の左腕を取ってシャツをまくる。
そんなくだらないことばかりが頭を掠める。 「おっまえ・・!なんで先に言わねぇんだ!青くなってんじゃ・・・」 青くなってるとは。 宍戸は怒鳴りながら、はっとしたように口をつぐんだ。 「いや、悪い」 「・・ぃいーよ、先に言わなかったの私だし」 私はずずっと鼻をすすり上げると、眼鏡を外し顔を拭いながら小さく答えた。 「・・・・・」 数秒宍戸は黙り込んだ。 上を向いたら泣き顔を見られてしまう。 私はなんとか涙を止めようと頑張って唇を噛み締めていた。 「ちょっと待ってろ」 宍戸は素早くセーターを脱いで私の頭に被せた。 優しい、宍戸は優しいなぁ。 優しくされると余計泣きたくなるのはなんでだろ。
すると女の子達の小さな声が聞こえた後、ばんっとドアが閉まる音。
私は顔を上げることもできずに、その考えに固まってしまった。 嫌だ。
「あいつらもう追い払ったから、安心しろ」 「・・・・・げっ」 「なんだお前その声は・・・」 「だ、だって」
「蹴られたのはこっちだけか?」 ひんやりした手が左腕に触れた。 「ぅうん。右も」 小さな舌打ち共に、右腕のシャツもまくられる。 「こっちは左ほどじゃねぇな、ちょっと赤いだけだ」 「・・そっか」 「で、他になんかされたか?」 宍戸はするりと腕を撫でると、冷やすためにこのままにしとくぜ、とシャツをしっかりとまくりあげた。 「弁当・・・」 セーターを目の上まで引っ張ってから、私は無残にひっくり返っているお弁当箱を指差した。 「・・今日は玉子焼きをね、特別おっきく作ってきたんだよね。宍戸は知らないだろうけど、玉子焼きをおっきくきれいに焼くのにはね、ものすごく時間と手間がかかるんだぞ」 「あぁ」 「でね、砂糖とみりんもたっぷり入れて、絶妙な甘さになって、最近に作った中じゃ一番の出来だった」 「向日あたりが大喜びしそうだな」 「うん、きっと向日が喜ぶだろうと思って・・・」
私は慌てて両手でセーターを顔の下まで引っ張り下げる。
「ぜっっったいにまた作ってあげるかんね・・・!」 その勢いでセーターごと宍戸の手がずり落ちる。 久しぶりに見た気がする宍戸の顔は、すっごいびっくりした表情をしていた。 「っと・・・!」 宍戸は急にはっとすると、私の頭から落ちていくセーターを止めようと後ろに手を回した。 「おわっ」 足に力が入っていなかった私は、とんっと前によろめいて宍戸につっこんでしまった。 「まったく」 そして、背中を優しく撫でてくれた。 「ありがと宍戸」 「おぉ、・・お前も女だったんだな」 「一言多いよ」 宍戸はハハッと笑うと、くるりと向きを変えてぽんと私の背を押した。
「え〜、変じゃんこんな風に被ってたら?」 私はこれ幸いと、顔をしっかりセーターで覆った状態で顔を上げた。 「人が貸してやってんのに文句言う気か」 「はいはい悪いねー、可愛くなくて」 「さっきまでは結構可愛かったぜ」
私は心の中で思いっきり噴き出してしまった。 「お前顔赤いだろ」 宍戸はにやりと笑って私の腕を取った。
どこへ、と私が疑問に思う前に宍戸は私を抱え上げた。 「ぎゃあっ!!」 「こっちのが速いからな、顔隠してるから問題ねぇだろ」
腕の手当てとか弁当とか、気にしたいことはたくさんあったけど、考えるのに疲れた私は宍戸のなすがままになることにした。
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