光の集まる場所

 

 

それは桜の舞う4月。
信じられないくらいの満開で、風が吹くたびに舞い落ちる花びらを捕まえようと、あたしは必死になっていた。

そして、見つけてしまったのだ。


運命の人を。


その人は髪にまとわりついた花びらを取ると、そっと風の中に流していた。
美しすぎる光景に、一瞬ぼーっとしていたあたしは、すぐに立ち直るとまっすぐその人のもとへ駆け寄った。

「あの!新入生ですよね!?」

「そうですけど、何か?」

「私はって言います!貴方は?」

「手塚国光です」

「手塚くん!!」

さっきからかなりの勢いで話しているあたしに、手塚くんは困ったような表情。
そんな顔もかっこよくて、あたしは更に勢いをつけて言った。


「仲良くなってください!!」

 

 

 

「そして3度目のこの季節、ってわけよ。わかる不二?この感動が!!」

「うん、よくわからないよ。それにしても綺麗に咲いたね桜」

不二はあたしの熱弁をあっさりと無視すると、窓の外を見ているあたしの後ろの方に声をかけた。

「手塚もこっち来なよ、すっごい綺麗だよ」

「・・・あぁ」

「私の隣が空いてます手塚くん!ここから見る校庭の桜が一番綺麗だよ〜」


「・・二人とも窓の外を見ていたように見えたが」


4階の美術準備室、美術部部長であるあたしは、その特権をフル利用してここにもぐりこんでいる。
同じクラスの不二は、あまりにも浮かれていたあたしに興味を惹かれて付いてきていた。


「手塚くん窓に映ってたもん。ね、不二」

「うん」

不二とあたしは、手塚くんを間に挟んでにっこりと微笑みあった。

「まったく手塚くんてば可愛いなぁ、うっかりなんだから」

さ、『ぐふふ』って笑うの怖いって前から言ってるじゃん」

「ほっといてよ、癖なんだもん」

「気づいてたなら声をかけるとかしろ」

「窓に映ってる手塚くんが美しすぎて・・・。空と桜に透けて見える麗人があたしの後ろにいるかと思うと、もったいなくて声かけられなかったデス」


「透けてる方がいいなら今すぐ後ろに行ってもいいぞ」


「あ、それなら後ろからあたしを優しく抱きしめてください」

手塚くんは一瞬固まると、呆れたようにため息をついた。
不二が嬉しそうに話に乗ってくる。

「え〜、ずるいよ。それなら僕もやってほしい」

「なーんだ不二ってばそういう趣味があったの?知らなかった」

「うん、ごめんね。僕、前から手塚のことが・・・」

「やめろ」

不愉快そうな顔の手塚くんに頭をはたかれて、不二は頭をおおげさに押さえながらあたしに向かって微笑んだ。
あたしも押さえきれずに大きく笑いながらそれに応える。

美術室は不二とあたしの笑い声でいっぱいになった。


「いい加減戻るぞ」

手塚くんはいつもの仏頂面に、不機嫌なオーラをまとってドアを開けた。
あたし達もそれにならって窓に背を向ける。

「そだね、もう戻りますか」

「どうもありがとう。ここの眺めからの桜なんて、3年間ここの校舎にいて初めて見た」

「でしょ。内緒だからね」

あたしはにっと笑ってから、前でドアを押さえている手塚くんにもにっこりと笑いかけた。
手塚くんは暗い廊下から眩しいものでも見るように、目を細めてこちらを見ている。

あたしが鍵を閉めていると、不二が手塚くんに向かって不思議そうに聞いた。


「ところで、何でがここにいるってわかったの?」


ふり返ったあたしと手塚くんの目が合う。
あたしはひらひらと手を振って見せた。

「これが机に入っていた」

白地に桜の花びらがプリントされている可愛いメモの一枚が、手塚くんのポケットから取り出された。

 

――美術準備室に来てください  P.S. 好きですv

 

「ぶはっ」

不二はお腹を押さえると、壁に両手を当てながらかなりの大笑いをした。
ここまでハイテンションの不二なんて滅多に見られない。

あたしと手塚くんは、不二の笑いの波が納まるまであっち向いてホイをして遊んだ。


「ぴっ、『ピーエス好きです』って・・・!!あははっ!」

「笑いすぎだ不二」

「つかそれはあたしの言うことでは?」

やっと回復した不二に二人で向き直った。
ちなみに戦績はあたしの4敗0勝だ。

絶対に自分が負けないのをわかってて勝負を受けたに違いない、くそ。


「・・・あー笑った。なるほど、こんなラブレター書く人なんて一人しかいないね」

不二は目元の涙を拭うとにこりと笑って言った。

「じゃあお邪魔な僕は先に帰るよ」

そしてさっと身を翻らせると、びっくりしているあたしと手塚くんに何か言わせる間もなく階段の方へと消えてしまった。

「・・・手塚くん」

「あぁ」

手塚くんとあたしは、不二の去っていった方へと目をやったまま結論づけた。


「「バカだ」」


不二、次の授業、隣の美術室だよ・・・。
ちゃんと道具とか持ってきといたじゃん!!

「流石にもう慣れてきたね」

「そうだな、流石にな」

不二がものすごいうっかり屋さんであることは、たぶんあたしと手塚くんしか知らない事実だろう。

このあとかなり照れ笑いぎみで登場した不二を、あたし達は暖かい笑顔で迎えてやった。

 

 

 

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