運命は突然に
無理。 私は軽い人ごみの中を歩いていた。 なるべく普通に歩こうとしてはいるのだが、かなりおかしなテンポで歩いているのが自分でもよくわかる。
「ばか、自分のばか・・・」 とほほ、と自分を嘆いていても足が痛いことには変わりはない。 こりゃあ痛くて当たり前だわよ・・・・。 無理して歩いたのがたたったせいか、現在地は駅と駅の中間あたり。 もっと先に諦めていればこんなことにはならなかったのに。
なんだか泣けてきた。 会議が終わって緊張が解けたのと、足が痛いのと、その他もろもろの物がどっと私に負ぶさってきたみたいだ。 痛む足を引きずりながら、なんとか道を行く。 絶望的な状況ってやつね。
明らかに足を引きずってるか弱い女の子がここにいるのよ?
何よ、ちょっと手を貸すぐらいしてくれたっていいじゃないの!! 私が本当に泣きそうになったとき、いきなり彼は現れた。
俯き加減で歩いていた私は、自分の目の前で止まった足を見てびっくりしながら顔を上げた。 「足引きずってるやないの、怪我でもしたんか?」 しかも関西弁で怪しさ倍増。 弱ってる人を見過ごせない心優しい人なのかも。
「あぁ、そりゃあかんわ。家はここら?」 「はい、あと1駅先なんですけど」 その関西弁を喋る男はふむ、と言いながら何か考えると、手をぽんと打ってこう言った。 「ならオレが家までおんぶしてったろか?」 「・・・・・」 「冗談や冗談!!本気にせんといて!」 男は慌てて手を振ると、にっこり笑った。 「怪しいもんやないから安心しぃや。タクシー呼ぶのが一番やと思うけど、どや?」
私は全然関係ないことを思いつつも、にっこり笑って返した。 「申し訳ないですけど、お願いできますか?」 「オレに任しとき!」 男は嬉しそうに笑ってポケットから携帯を取り出した。
そんな簡単なこともすっかり失念していた自分に呆れつつも、この人に深く感謝した。 と言っても関西出身みたいだけど。 「本当にありがとうございます」 私は心からの気持ちを込めて挨拶をした。 「困ってる女の人を助けるのは当たり前や。ちなみにお名前は?」 「 です、あなたは?」 「 さん、いい名前やね。オレは忍足侑士。よろしく〜」 忍足侑士がにこにこ笑って手を出したので、私もちょっと躊躇しつつもその手を握った。
そっと前に目線をやると、不思議そうな顔をして私を見ている忍足くんと目が合った。 「なんやろ今の。身体がびりびりしおったわ」 忍足くんは首を傾げながら私を伺った。 「えぇ、何か変な感じ。静電気かしら」 じっと握手している手を見てみる。
「あの、手、離してもらえます?」 「これは失礼しました」 忍足くんはおどけてからぱっと手を離した。 「タクシーが来るまでオレも待つで、まぁすぐ来るやろうけど」 「・・ありがとう」 忍足くんはそう言うと真面目な顔で黙ってしまった。 私はその横に立ってタクシーを待つことにした。 そっと横を伺う。 3分ほど経っただろうか、遠くにタクシーの影が見えて私がほっと安堵のため息を吐いたとき、忍足くんが急に声を発した。
びっくりして忍足くんの方を見ると、彼はしごく真面目な顔をしていた。 「それはつまり、・・彼女になってくれってことかしら?」 忍足くんはこっくりと頷いた。 いきなり会った人にこんなこと言う? 私が返事に困っていると、忍足くんの方が私よりも困った顔をしていることに気が付いた。
「いきなりなのはわかってるんやけど・・・、 さんは運命って信じとる?」 「運命?あんまり考えたことないわ」 「オレな、これはきっと運命の出会いやと思うねん!だからここでさよならだけはしたくないんよ」 タクシーが私達の横で止まった。
どうしよう。 実は私も同じようなこと考えてたんだけど。
「タクシー乗らない?」 忍足くんの顔がぱっと笑顔に変わった。 「もちろん乗りまっせ!!」 私はにっこり笑ってタクシーに乗り込んだ。 目的地を告げるとタクシーは音をたてて動き出した。 「これからよろしく、 さん」 「こちらこそよろしくね、忍足くん」 もう一度握った忍足くんの手からは、間違いなく先程と同じ感覚が伝わってきていた。
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