大吉
すごいー!大吉ってすごい!
初詣で大吉引けるなんて、今年はきっと死ぬほどいい年だよ!!
持って帰って飾ろー!
私は鼻息も荒く、おみくじを財布にしまった。
お昼の境内はかなり混んでいるけれど、せっかくなのでおみくじを引いたついでに横に並ぶ売り物に目をやった。
破魔矢に、ダルマ、絵馬、色とりどりのお守り。
酉年だから鳥をモチーフにした物が多くて、どれも可愛らしい。
ただ中にはリアルな鳥っぽいのもいたりして、それが逆に私の目を引いた。
真っ白い本物の羽に、真っ赤なとさかが立派な雄鶏。
手のひらサイズの小さいくせに雄雄しい置物。
一番上に置いてあるヤツと目が合う。
――気に入った
「すいません、これくださーい」
巫女さんは笑顔で包んでくれた。
ほくほくしながらの帰り道、神社の入り口(出口?)で友達と別れた私は、もう一度あの雄鶏を見たくなった。
ん?
潰れないように鞄の一番上に置いた袋が見当たらない。
大して物の入っていない鞄の中をそっと探すが、それらしい手触りのものはない。
見つかんないなー。
仕方なく鳥居の横で立ち止り、鞄をがばっと開いて中を確認したが、どこにも見当たらなかった。
なっ、ない!!落としたー!!?
あまりのことに一瞬身体が強張ったが、そんな場合じゃない。
さっ、探さなければ・・・!!
誰かが持っていっちゃうかもしんないし!
あぁー!親切な誰かが社務所に届けてくれることを願う!!
社務所は一番奥にあるし、そこまでの道のりを逆走して探そう・・・!
私はきっと顔を上げ、また人ごみの中へと突入していった。
ないっ、ないっ。
下ばかり向いて探していたため、時々人にぶつかっては謝って散々探したのに、どこにも落ちていなかった。
まっ、まだ社務所があるもんね!
新年早々ネコババしようなんて人いないよね!
私は人間の良心を信じてる!!
「白い雄鶏の置物ですか・・今の所届けられてないですねぇ」
がーん!!
目の前が真っ白になった。
出てきた時のために連絡先をしょぼしょぼと書いて、今来た道を戻る。
がーん、がーん、がーん・・・・。
いや、待て、落ちこむのは早い、帰り道をもう一度しっかり探してみるんだ!
さっきより落ち着いて探せるはず!
ひょっとしたら今誰かが拾って届けてくれているかもしれないし!
少し空いてきた境内を、目からビームを放つ勢いで睨みつけながら歩く。
どこかに、どこかに白い小さな袋が落ちていないか・・・!!?
どんっ
「あっ、すいません!」
「いや、こっちも余所見をしていた、すまんねお嬢さん」
少し強面の和服のおじいさんは軽く頭を下げた後、不思議そうに聞いてきた。
「はてあんた、さっきも見たな、・・何か探しているようだったが?」
「あっ、あの、白い小さな袋を見かけませんでしたか!?さっき落としてしまって・・・!」
私は必死になって説明をしようとしたが、おじいさんが手を振ってそれを遮った。
「お嬢さんの落し物かどうかは知らんが、今さっきそれと似たような物を孫が拾って社務所に届けに行っておる」
ぱあっと視界が明るくなるのを感じた。
思わず勢いづいて叫んでしまった。
「ほっ、本当ですか!?ありがとうございます!もう一回行ってきます!!」
私はぺこりと頭を下げると、遅い足で猛ダッシュをした。
おじいさんが何か言いかけていたけど、今はごめんなさい!と心の中で謝っておく。
人の隙間から社務所が見えてきた時、誰かに声を掛けられた。
「」
急に止まろうとして、運動神経の鈍い私は危うくこけそうになったが、力強い腕が私を支えてくれた。
「人ごみの中を走るな、危ないだろう」
「手塚!」
新年初の言葉がそれですか!!
「だって、いや今急いでて、落し物が、あっ、白い雄鶏なんだけど、それを社務所に!おじいさんの孫が!」
「・・少し落ち着け」
手塚の出現と、急がなければ!という思いが強すぎたせいで、私の頭はすっかり混乱していた。
「うん、そうだよね、届けてくれるってことは、そうだそうだ、私がこんなに急ぐことはないんだよね・・」
ぶつぶつ呟いていると、少し上の方から手塚のため息が聞こえた。
「あっごめん!新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくね!!」
「おめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
少しやる気のない口調だったのが気になるけど、まぁ今は聞き流してあげよう。
「そのおじいさんというのは、深緑の和服に白髪の老人か」
「うんそんな感じ、ってよく見ると手塚も和服だね!うわーかっこいい!似合う!中学生には見えない!」
海老茶色の紋付袴姿の手塚に今更気づくなんて、慌てすぎだよ自分!
にしても渋いー!本当に歳いくつなの!?
さっぱり落ち着かずに喋り続ける私を無視して(呆れて?)手塚は続けた。
「何か落としたのか?」
「そうなの!さっき買ったばっかりの白い素敵な手乗り雄鶏をね、白い神社のマークの付いた袋に入ってるんだけど」
「ではこれのことかもしれないな」
そう言って手塚が私の顔の前に出したのは、私が落とした袋と同じサイズのもの。
「ちょっ、ちょっと貸して!」
あわあわしながら受け取り、日の光に透かしてみると、そこにはくっきりと雄鶏の雄雄しいシルエットが!
自分の顔が思わず笑ってしまうのを感じながら、今度は丁寧に袋を開けてみる。
中身を手のひらに出すと、そこにはまぎれもなくあの雄鶏がいた。
「これだー!これだよ私が探していたのは!手塚!もう本当にありがとう!なんと言ってお礼をしたらいいのかわかんないけど、ともかくありがとうございます!!」
興奮が頂点に達してくっきり90度に腰を折って礼をする私の頭を、手塚はぽんと撫でてくれた。
「良かったな、見つかって」
う、
頭に乗っていた手がそっと去ってから、私はがばっと頭を起こした。
「嬉し〜・・・手塚に頭撫でられちゃった・・・」
緩んでいた顔が更にだらしなく緩んでしまう。
撫でられた所に手をやると、そこだけほんのり暖かいような気がした。
うふっとも、ぐふっとも聞こえる笑いを発しながら顔を上げると、手塚が目を細めて微笑んでいた。
どっきぃん
「あ、えーと」
ヤバイ、今心臓がめちゃくちゃ音を立ててときめいたよ。
顔、顔!顔が熱い!絶対じゅうじゅう言ってる!!
「」
「へっ!?」
「祖父が向こうで待っているようだ、一旦向こうへ行こう」
慌てて振り向くと、さっきのおじいさんが道から少し逸れた所でこちらに向かって手を上げていた。
さっきの人、手塚のおじいさんだったんだ!
ん?
私ははっとおみくじのことを思い出した。
「すごーい!さすが大吉当たってる!」
「大吉以外も当たるはずだが・・・、何が当たったんだ?」
おじいさんの所を目指して人を避けながら歩きはじめる。
「失せ物はね、男の人が知ってるでしょうって書いてあったの!手塚のおじいさんがそうだったみたい!すごーい!」
「・・あぁ、そう言えば俺も当たったようだ」
「手塚も?何が当たったの?大吉?」
にこにこしながら見上げると、手塚は袂からかっこよくおみくじを取り出して私に渡した。
歩きながらだと危ないので、一旦道の端に止まってじっくりとおみくじを見る。
「手塚も大吉だ!何が当たったの?」
顔の前にびらっと広げたおみくじの、無言で手塚が指差した所をそのまま読む。
「まちびと、かならずあらわれ、うまくいくでしょう」
「ということだ」
・・・ということだ、ということはどういうことだ?
「に年が明けて一番に会えて良かった」
思わず顔を上げた私の脳みそはすっかり活動停止。
畳み掛けるように手塚が続けた。
「休みに入ってから、ずっと会いたいと思っていた」
ということは・・・・!?
馬鹿な私は、他にもっと言葉があるだろうに、気がつけば思いっきりストレートに聞いてしまっていた。
「てっ、手塚は、私のことが好きなんデスカ?」
「あぁ、好きだ」
手塚はじっと私を見つめてからあっさりと言いのけた。
さっきよりも顔が熱くて、どくんどくんと心臓が波打ってて、自分が爆弾の一塊のような気分になった。
身体の感覚ばかりが嫌に鋭敏で、思考は霞がかったように何も考えられない。
視覚だけが正常に働いて、手塚の真剣な顔を映している。
私も、言いたいことがあるのに!
口が動いてくれない・・・!
「おいお前ら、遅いぞ!若いのだからもっとさっさと歩かんか」
私と手塚ははっと視線をずらすと、おじいさんがぷりぷり怒りながらこっちに向かって歩いてきていた。
「まったく、国光お前ももっとしっかりせんか!お嬢さんの顔が真っ赤ではないか。お嬢さん、人ごみに当てられたんだろう?私の家で休んでお行きなさい、なぁにすぐそこだから大丈夫だ。さ、行くぞ国光!お前が支えてやれ!」
いきなり怒鳴られてすっかり驚いている私を尻目に、おじいさんは言いたいことだけ言うとさっさと歩き出してしまった。
少し引きかけていた熱が、ぎゅうっと上がる。
は、恥ずかしー・・・!!そんなに真っ赤なの私の顔!?
「て、手塚・・」
声を振り絞って呼びかけると、手塚はやれやれと言うようにため息を吐いて、そっと私の背中を押した。
「ということだ。遠慮する必要はない、どうせあの人からは逃げられないしな」
「う、うん、でもほんとにいいの?いきなりお邪魔しちゃって」
「問題ない」
それならいいけど・・。
ていうか背中の手は問題ありですけど・・!!
心臓の音、とっくに伝わっちゃってるかな・・・?
でもおじいさんの乱入のおかげか、少しだけ頭に冷静さが戻ってきた気がする!
「手塚、あのさ、私も手塚のこと、好き!です!」
本気だってことを伝えたくて、おじいさんには悪いけどまた立ち止った。
そしてしっかりと手塚の双眸を見据える。
手塚は少し目を開いて私を見つめて、また微笑んだ。
「ありがとう」
そして背中にあった手がするりと下りて、きゅっと私の手を握った。
「行こう」
「っうん!」
手塚の手は想像していたよりもずっと暖かくて、胸がじーんとして泣きそうになった。
これって大吉のおかげかなぁ。
「手塚、大好き」
気持ちを口に出したらすっとした。
思ったよりも隠していた気持ちは重くって、ずっしりきてたみたいだ。
口から気持ちが溢れて、言う度に心がぽかぽか暖かくなる。
「あぁ、俺もだ」
手塚はほんのり耳の赤い顔で微笑んで、繋ぐ手に力を込めた。
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