目上の人のさしずうけてよし

 

 






お昼とは言え元日、ほぼ人のいない街を悠々と歩く。
神社からの帰り道でお買い物を頼まれたあたしは、一人でスーパーに向かっていた。


でも、今日は面倒なお買い物も笑顔で引き受けちゃうもんね。

なにしろさっき引いたおみくじがすごい良かった。
初めは吉か、なんてちょっと期待ハズレだったんだけど、
よく見ればなんと書いてあることが全部今年は完璧!って告げていたのだ。

この分ならあたしがマネージャーを勤めるテニス部だって、全国優勝しちゃいそう。

もうなんだって引き受けちゃうもんねー。
今のあたしは決してノーとは言いません!



一人でうきうきしながら歩いて、目的のスーパーの目の前にある信号でストップ。

人も車もまばらな赤信号。

思い切って渡っちゃおうかな?
いやいやこれくらい待つ余裕がなくてどうする。
今年のあたしは余裕のある女よ!


ふふっと笑って吐き出した白い息を見送る。

そしてそのまま目を上げると対面の歩道に一人の男の人がいた。
黒い短めのストレートの髪に、黒ぶち眼鏡、後ろで結んだ黒のマフラー、緑のスカジャンにジーパン、手にはスーパーのビニール袋。


――・・・・・・・・・


私が何も考えられずにただその人を見つめていると、その人は車道の右左を確認してから、軽やかな走りで横断歩道を渡ってこっちに近づいてきた。
そして私の目の前に着いた瞬間、その人は口を開いた。


「よっ!明けましておめでとな!今年もよろしく」


へっ!?こ、この声は!!


「もっ、桃先輩!?」

「おうよ!休み中も部活で会ってたからあんま久しぶりじゃねーなぁ」

「髪が!ってか目ぇ悪かったんですか!?」


いつもツンツンしている髪はぺしゃんこで、短いけれどさらさらな真っ直ぐヘアー。

あたしがびっくりしているのが余程おかしかったのか、眦の上がった瞳が眼鏡の奥でにまりと細まった。

「いやーちょっと買い物頼まれて。昨日夜中まで起きてたもんだから髪セットすんのメンドくさくてさー。これしてればバレないかと思ったんだけどなぁ」

桃先輩はそう言って黒ぶちの眼鏡を外した。

「もちろん度は入ってないぜ」

「ですよねー!桃先輩の目が悪いなんて聞いたことないですもん!」

なんとか笑顔で会話を返しつつも、あたしは内心の動揺を押し隠すので精一杯だった。



なんてこった・・・・!
まさかこんな風になるとは想像もできなかった。



「にしてもよくオレだってわかったなぁ、すげーよ!家族にだって誰だかわかんねぇって言われたのに」

「そりゃわかりますよー、だって毎日のように部活で先輩のこと見てますから!」



すいません、100%ウソです。
声を聞くまで誰だかぜんっぜんわかってませんでした・・・。



「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ。で、は何しに行く途中だったんだ?」

桃先輩は眼鏡を掛け直しながら爽やかに笑った。

「そこのスーパーに買い物に来たんです、親に頼まれちゃって」


ヤバイから!その笑顔ヤバイ!!

肺から心臓にかけてが、ざらっとした猫の舌に舐め上げられた気分だ。


顔が引きつっていないことを祈りつつ、笑顔で(自分予想)向かいのスーパーを指した。

「オレもなんだよ、奇遇だなぁ。お!青だぜ渡るぞ」

桃先輩はそう言うと、私の肩を軽く押して前に歩き出した。

「えっ、先輩はもう買い終わったんじゃないですか!?」

「付き合うぜ、どうせ家帰ったってヒマなんだしよ」

それに、と言ってまたにっこりとあたしに笑いかけた。

「買い終わったらそこの神社に初詣行こうぜ。昨日の夜行ったんだけどおみくじ引き忘れちまってさ」

「はい喜んで!あたしもおみくじ引き忘れちゃったんですよ、奇遇ですねー!」

さっき引いたおみくじに心の中で謝っておく。



だって、髪を下ろして眼鏡をかけた桃先輩がこんなにあたし好みだなんて知らなかったんだもん!


いつものスポーツマンタイプとは正反対に、ちょっとインテリ風でかっこいい。
私服を見るのも初めてだけど、とっても私の好きな色合いだし、スカジャンとジーパンも大好きだし!


「おっし、お礼に荷物はオレが持ってやるぜ!」


腕の筋肉をぽんっと叩いて笑う桃先輩は、そりゃもうメロメロに溶けちゃうくらいにかっこよかった。

 

 

 

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