中吉

  待ち人  突然やってくるでしょう

 

 







うん、いいんじゃない?

大吉は胡散臭いし、凶なんて引いたらそれこそ最悪だし。


昼間なのに寒い境内で、私はおみくじをしげしげと眺めたあと、それを細長く折りたたんだ。
空気は刺すように寒く、私の顔はぴしりと凍り付いている。
あとは適当な枝につけるだけで良しっと。
寒いし、早く帰ろう。

しかし、見渡す限りの手の届きそうな範囲の高さはおみくじでいっぱいである。
下の方の枝っていうのも御利益低そうだけど、上は手が届かないし。


どうしようかなー。


私は仕方なく、手ごろな枝を探す旅に出ることにした。





辺りをきょろきょろしながら人通りから少し離れると、途端に寒さが押し寄せてきたような気がする。
人ごみってあったかいんだなぁ。
なんて思いながら後ろの人達をふり返る。

家族連れに恋人達。

初詣に一人で来ているのなんて、私くらいのものかしら。
お父さんもお母さんも、北海道でいまごろ初詣してるかなー。



さん?」


「ひぇっ?」

いつのまにかぼーっとしていたらしく、背後から声を掛けられた私は情けない声を上げてしまった。

ふり返れば、不二周助。


不二くんは白い息を吐きながら、にっこり笑って言った。

「明けましておめでとう」

「・・明けまして、おめでとう」

久々に発した言葉は、じんわりと暖かく胸に染み込んだ。

私服の不二くんは、やはり格好良かった。
茶系でまとめられた服は髪の色に良く似合っている。


さんも初詣?」

「うん、不二くんも?」



一人なの?



「うん、毎年初詣はこの神社に来てるんだ。初めてだねここで会うの」

さっきまで暖かく感じていた人ごみが急に憎らしくなった。
私も毎年来てたのに!

「私も毎年来てたけど、この人ごみじゃしょうがないよ」

「そうだね」

不二くんはそう言って、またふんわり笑った。


あぁ、この人の笑顔って、どうしてこんなに綺麗なんだろう。
この人の周囲だけ空気が暖かい。
つられて私の顔まで勝手に笑っている。

「あれ、さんもおみくじ引いたんだ。どうだった?」

「中吉だったよ、見る?」

おみくじを手渡す。
不二くんはふーん、と小さく呟いて、ふと顔を上げた。

「ひょっとして、これ枝に結ぼうとしてた?」

「うん」

「これは結ばないで持って帰った方がいいよ」

「そうなの?なんで?」

「あまり良くない結果の時は枝に結んで神様に見てもらうけど、良い結果の時は自分で持ってた方がいいんだって」

「へぇ、知らなかった」

不二くんから返されたおみくじをまじまじと見る。


二人が黙ると、急にしーんと静かな空間が広がった。



あまりの静かさに驚いて顔を上げると、微笑む不二くんと目が合った。
微笑み返すこともできずに、不二くんの顔をじっと見つめた。



私の世界にはいま、不二くんしかいない。






「周助ー!見つけた!」



私の身体が驚きのあまり大きく跳ねた。
不二くんの来た道から、綺麗な女の人が足早に近づいてきている。
どきどきしている心臓を押さえながら、ちらりと不二くんの顔を伺うと、彼は驚いた風もなくふり向いて彼女に笑顔を向けていた。

「ってごめんなさい、お友達と一緒だったのね」

「こっちこそごめん、つい話し込んじゃって」

和やかに話している二人を見て、少しがっかりしてしまった。

一人じゃ、なかったんだ。
そらそうだ。

勝手にこのあとのことを想像していた自分が恥ずかしい。


『良かったらお茶でも飲んでいかない?』




「引き止めてごめんなさい、私もう帰りますから」

にっこり笑ってから一礼した。
目が合った女の人は、近くで見てもとても綺麗だった。

「あらいいのよ!でもどうせならもっと暖かいところで話したら?気が利かないわねぇ周助!」


「姉さん」


背中を叩かれた不二くんは、ちょっと困ったように笑った。
そしてふり返って、びっくりして女の人を凝視する私に向かって手を伸ばした。
顔は、まるで天使のように微笑んでいる。


「良かったら、お茶でも飲んでいかない?」

 

 

 

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