予測不可能

 

 

「ラッキーだったね!まさかこの席に座れるとは思わなかった」

「うん、竜崎先生のおかげだね」

あたしと不二は、食堂の一番端の丸テーブルを独占していた。
ここは他の席から少し離れていて、しかも横に大きな窓があって気分良く食事が出来るということで、かなり競争率の高い席なのだ。

購買が遠いのが難点だけど。

じゃあなんで座れたかと言うと、4時間目に授業のなかった竜崎先生が座っていて、ちょうど食堂に入ってきたあたし達に譲ってくれたからだ。
それまで竜崎先生が退く瞬間を虎視眈々と狙ってた人には可哀想だったけど、不二と英二くんとあたしは遠慮なく座らせてもらった。

ちなみに英二くんは、あたし達に頼まれてジュースを買いに行っている。

 

「ところで

不二がにっこり笑ってあたしを見た。
なんか企んでるな?

「なーに?」

あたしもにっこり笑いかえす。


「もう手塚には告白したの?」


「えっ?不二ってば何言ってんのよ!手塚くんには毎日のように愛を伝えてるじゃない」

というかさっき食堂に行く途中でばったり会った手塚くんに、思いっきり「好きです!!」って叫んでたのを真横で笑いながら見ていたはず。
そしていつも通りに「あぁ」とだけ言って去ってしまった手塚くんも見てたはず。


「違うよ。そういうふざけた告白じゃなくて、真面目なやつ」

「ふざけたって失礼な!あたしはいつでも真剣よ!」

ちょっと苦笑しながら言った不二にあたしはむくれて見せたが、すぐにため息を吐いてしまった。

「まぁ、あれを真剣だと思えって方が無理よね」

「で、どうなの?」

不二はあたしに顔を近づけて、興味津々。

「うーん、なんて言ったらいいのかな・・・。手塚くんのことは好きだけど、ちょっと違うの」

「どう違うの?」

「恋人になりたい!って感じじゃないことは確か。・・憧れてる、が一番近いと思う」

考え考え言ったあたしを、不二はなんだか微妙な表情で見ている。
そして小さくうーん、と呟くと、こう言った。

「でもそれは、人を真剣に好きになるまでの段階の一つじゃない」

「・・う?よくわかんない」


「つまりね、今は憧れでも、はそのうち絶対に手塚に告白するってこと。真剣に」


「絶対に!?なんでそんなことわかるの不二?」

あたしは驚いてしまった。
だって不二ってば、未来が見えてるみたいにすっごいはっきり言うんだもん。

 

「僕は、のことならなんでもわかるんだ」

 

不二はきれいな顔でにっこり笑った。
ほんとにきれい。

でも、ちょっと儚い笑い方。


「不二・・・?」


あたしがなんとなくおかしいな、と思って不二に何か言おうとした時、英二くんが人ごみを掻き分けて走ってくるのが見えた。

「不二ー!ちゃーん!ごっめん遅くなっちゃった!」


「英二くん!そこでストップ!!両手は後ろ!!」


「はい!!ってなんで?」

あたしと不二のいるテーブルまであと2メートルくらい。
そこで英二くんは、あたしに言われた通りにジュースを持った両手を後ろに回してぴたっと止まった。

ごめんね英二くん。いい人だ。

あたしは英二くんにちょっと待ってと言うと、不思議そうにこっちを見ている不二に向き直った。


「不二、あたしのことならなんでもわかるって言ったよね?」

不二はまたさっきの儚い笑い方で応えた。

「じゃあ、あたしが英二くんに頼んだ飲み物が何か当ててみてよ」

あたしは挑むような微笑を浮かべて不二を見た。
英二くんは状況が飲み込めたようで、手は後ろのままで不二とあたしの真ん中に立った。


「さ〜、ちゃんは何を頼んだんでしょうか?」

英二くんとあたしはにやにやしながら、考える不二を見守った。


「・・はいつも、油の多い食事の時はウーロン茶、紅茶と日本茶は飲まない。すっきりした食事なら飲むヨーグルトか苺ミルク、もしくは新発売のジュース」

あたしはびっくりして目を見開いた。
あ、当たってる・・・。


「で、今日のお昼は菓子パンにドーナッツ。新発売も特にないから、ウーロン茶、かな?」


不二はにっこり笑ってあたしを見たあと横に立つ英二くんを見上げた。
乾くん並みの情報量に、あたしはただ驚かされるばかりだ。

「どう?英二」

英二くんとあたしは顔を見合わせた。

 

「ハズレ!!」

 

あたしは嬉しくって英二くんと声を合わせて叫んだ。

「英二くんどうもありがとう!さぁ座って座って!」

「やったね〜!オレ不二がクイズ外してるとこ初めて見たよ!!」

「ほんと!?やったやった!!」

不二はというと、びっくりした顔であたしのことを見ていた。
その顔ににやりと笑いかけると、机の下で受け取ったジュースを、水戸黄門のように不二の目の前に突き出した。


「正解は野菜ジュースでした!!」


不二は、ぽかんとした表情で目の前の野菜ジュースを見つめている。

「この間乾くんから野菜ジュース貰って飲んだら結構美味しくて。だからサラダ買う代わりに野菜ジュース飲むことにしたの!」

「オレもこれなら飲めるんだけどな〜。乾印のはマジやばいって!」

英二くんはさっそく定食を食べ始めている。


「どう不二?あたしのことならなんでもわかるんじゃなかったの?」


まだぽかんとしていた不二は、あたしの顔を見ると、笑った。

それは嬉しそうに笑っている。



「あぁ、参ったなぁには。ほんと予測不可能だね」



なんだかよくわからなけど、不二が嬉しそうに笑うので、あたしも嬉しくなった。

「当たり前よ!女は謎が多い方が魅力的なんだから!」

それに、とあたしはにこにこ笑う不二に続けて言った。


「いつもウーロン茶でも、明日は紅茶飲んでるかもしれないじゃない」


と、それまで暖かい雰囲気で笑っていた不二が、うっすら目を開いてにやりと笑った。


「人の気持ちは移ろいやすい、ってことだね」


「・・ま、まぁそういうことよ」

気温が2度くらい下がった気がする。
英二くんも同様に感じたらしく、不二の笑顔を恐ろしげに眺めている。

 

不二はそのあともずっと機嫌が良かった。
でも、教室に戻るとき、ふとなにか聞き忘れた気がした。

結局それがなんなのかは思い出せなかったけれど。

 

 

 

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