化粧はあたしの鎧。
時間を掛けて、あたしは丁寧に、敵とまみえる準備をする───

 

 

 

 

 

armor

 

 

 

 

最近、お気に入りの、DHCの洗顔石鹸。
洗顔の時は、優しく、顔をマッサージするように。
あまり擦ってはダメ。

洗顔が終わったら、直ぐに化粧水を。
化粧水は保湿だから、早めに、丁寧に。
その後は美白液。
そして、乳液。
潤いを閉じ込めて。

もう5月だもの、下地にはUVカットのものを使用。
曇っていても紫外線の量は変わらないの。
ファンデーションは薄く。
折角若いんだから、肌は健康的なすべらかさを強調。
厚塗りはタブー。

眉毛をゆっくり、細かく描いて。
ここは慎重にいかないとキレイな眉にならないので、肘を固定。
黒目の端に山の頂点が来るように。

薄いパール入りのアイシャドーを瞼にそっと乗せる。
その後、少しだけ目の端に色を乗せて。
今日はピンクの気分。
その後はアイライナーで目の際にアイラインを引いて。
あまり厚くしすぎるとクレオパトラみたいになるから要注意。

その後、ビューラーで睫をカールさせる。
本当はホットビューラーを使いたいけど、睫が傷むから、資生堂のやつ。
結構、お気に入り。
瞼を挟まないように注意して。

マスカラの下地を塗って、その後でマスカラを軽く塗る。
あんまり塗ると違和感ばりばり。

マスカラが乾く前に、頬骨の少し下ら辺に、ほんのりピンクのチークを入れて。
あんまり濃いと、運動直後みたいな頬になるから、本当に薄く。

そして、口紅。
ソフィーナの新作はグロスみたいでお気に入り。

その後、もう一度ビューラーで睫をカール。

 

鏡の中の自分を睨んで。
今日の鎧の完成度に軽く頷いて。

? どうして水曜はそんなにメイクに時間掛けてるの? しかも講義終わってから」

それまでノーメイクみたいなもんなのに、って友達が心底不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女も、これからデートで、あたし以上のメイクを施してある。

「これからバイトなの」

「男子中学生の家庭教師でしょ? そんなフルメイクで行かなくちゃいけないようなカッコイイ子なの?」

こういう話が大好きな友達に苦笑した。

 

「その反対よ」

 

 

 

 

通い始めて1ヶ月もすれば、慣れてくる、少しだけ坂道のある彼の家周辺。
駅から遠いのは難点だけど、良い所だ。

彼の家に近づくと、寺の鐘が撞かれている。
彼のお父さんが、住職代理らしい。
でも煩悩にまみれているとても面白いおじさんだ。

 

このバイトはサークル友達のナナコちゃんの紹介で始めた。
帰国子女の男の子に現代国語と古文を教える。
教科はそれだけ。
ナナコちゃんは、『私が教えると、肉親だからやり難いだろうし。それに私理系だから…』と苦笑した。
でも、あたしも理系人間よ、ナナコちゃん、何て言える訳もなく。

でも、本当の所、あのガキに手を焼いていたんじゃないだろうか。

あのガキ───越前リョーマは見た目は可愛くて、将来有望な少年だけど、口を開けば嫌味ばかり。
まぁ、生意気盛りなのは判るけど、それでも、年上を年上とも思わない口調に、真っ直ぐな視線。

どうして、あの視線があんなにあたしを追うのか、判らない。


そして、どうしてあたし自身が、あの視線を気にしてしまうのかが、判らない。


だから、困る。

 

 

 

越前家は、普通の家庭だ。
おじさんの職業が収入を得ているかは判らないけれど、おばさんの収入はかなり良いもののようだ。

「お邪魔します」

「いらっしゃい、ちゃん。リョーマさんなら、部屋に居るから、上がって行ってね」

ナナコちゃんが柔らかい笑みを浮かべている。
後で、珈琲を持って行くから、という声を背中で聞いて、あたしはリョーマ君の部屋の戸を叩く。

「リョーマ君? 入るよ」

返事が無い。
きっとまた寝てるんだろう。
でも、仕方が無い。
彼はあの青春学園男子テニス部で1年生にしてレギュラーの座を勝ち取ったそうだし、部活で疲れているのだろう。
そういう所はちゃんと中学生なんだけどな。

ドアをそっと開けると、案の定ベッドで眠るリョーマ君。
飼い猫のカルピンを抱いてすぅすぅ寝息を立ててる姿は、本当に可愛い。
こっそり笑って、足元で丸まっている肌掛けを引き上げる。
今日は寝かせておいてあげよう。

「あら、リョーマさん、寝ちゃったの?」

「ナナコちゃん。珈琲? 有難う。でも、今日はリョーマ君疲れているみたいだし…」

「でも、リョーマさん、水曜はいつも楽しみにしてるから…お腹が空いたら起きるだろうし、少しだけ待っててあげて?」

ね、ちゃん、なんてナナコちゃんに言われたら、断れない。
温和な笑顔のくせに、有無を言わさないであたしを引き止めるんだから。

「判った。じゃぁ、30分、待つわ。それでも起きなかったら、帰る。今日出た課題でもやってるわ」

「有難う、ちゃん」

これだけ近くで話しているのに、リョーマ君は全然目覚めない。
やっぱり疲れてるんだろうな。
帰った方が良いんじゃないかな。
色々な事が頭に過ぎる。

「取り敢えず、課題課題」

リョーマ君の机は汚くて勉強出来ないし(如何にも男子中学生って感じ)、卓袱台で静かに資料を広げた。

 

 

 

「ん……」

小さな呻き声と衣擦れの音。

「リョーマ君、起きた?」

ベッドを見やれば、眠そうな目をリョーマ君が擦っていた。

「え…?」

「おい。年上を呼び捨てにするな。君とあたしは7歳も離れてるんだぞ」

「日本的だね。年齢なんて関係ないよ」

「……(帰れば良かった……)」

ニヤリ、と笑うリョーマ君は、どこかちょっとだけだけど、艶かしい。
っていうか、中学1年生に色気を感じちゃダメなんだって!

「…自分の宿題やってたの?」

「(宿題…!) うん。君の寝顔をずっと観察してるのも妙だしね」

「見てれば良かったのに」

ほんのちょっぴり、どきり、と心臓が上下運動をした。

「いや、悪趣味だよ、それ」

「っていうか、危機感ないよね。仮にも男の部屋で」

「猫抱っこして寝るような子は男の子です」

カルピンがほぁら、なんて変な声で鳴くのに苦笑して。
おいで〜なんて手招いたのが大失敗だった。

「きゃあ!」

カルピンが着地したのは足の甲。

あたしはずっと横座りをしていた所為で、足が痺れていた。

身悶えるあたしにリョーマ君は大笑いだ。


ム カ ツ ク 


ちょっと、殺意を覚えるんですけど。
良い根性しているわ、本当に。
大丈夫?っていう一言があれば、こんなに腹も立たないのよ、ボーイ。

「まだまだだね」

そう呟いて、リョーマ君が近づいてくる。
何か、嫌な予感。

「ちょ、リョーマ君?」

「俺が男だって判らせてあげようか?」

その瞬間。


「ひぃ───────っっっ!!!!」


こんのガキゃー!
足を摩りやがった。
痺れていて、立てない位なのに、これ以上なくエロくさい手つきで摩りやがった…!

「ギブギブ! 止めてー!!」

「甘いんじゃない?」

その台詞に、またしても足を刺激されると思って、ちょっとだけ身構えた(でも自分の動きに余計辛くなったのだけど)。
あたし、負けない!

と、思ったのに。


「ん…っ」


あら、あたし、キスされてるわ。
7歳も年下の子に。

って、冷静さは1秒も持たなかった。
あたしの二の腕を掴む(ダイエット中だけど、脂肪分がね…)手に、暴れるけど、足が痺れて儘ならない。
胸を押してもびくともしない。


ああ、彼は立派な男じゃないの


抵抗しても、敵わないなんて、悔しい。


「どう?」

やっと開放された口から、酸素をたっぷり吸い込む。
きっと、あたしの顔は赤いに違いない。

「どう、も何も無いわよ! いきなりこんなことするなんて。いい!? あたしは君の家庭教師で、君より7歳も年上なの」

「年上? それが何?」

悔しい。
何が悔しいって、いつもより2倍位早く上下運動を繰り返すあたしの心臓。
潤ってしまう、目。
彼を感じる五感全て。

こんなに悔しい思いは暫くしていなかった。

頬に涙が伝う。


ああ、あたしの鎧が溶けていく。


「あんたはね、俺が好きで好きで堪らないんだよ」

「……は?」

「こんな化粧して、年齢差をアピールして、そんなに俺に捕まるのが嫌だった?」

「……え?」

「でも悪いけど、俺は逃してあげないよ」

「……い?」


「あんたが、好きだから、逃がさない」


リョーマ君が、再び、無理やりキスを迫ったので、あたしは逃げようとして、そして足の痺れに戦慄して、その瞬間にやっぱり彼の思い通りになった。
っていうか、静まってよ、あたしの心臓。

7歳も年下なの。
化粧している女が珍しいだけなの。
だって、告白って違うでしょ?
もっとドキドキするような、切ないものでしょ、普通!

っていうか、これって犯罪なんじゃないの?
あたし、中学生とキスしてるのよ?

「鬼畜」

「褒め言葉、有難う」

「どいてよ」

「だから嫌だって、

「呼び捨てにするなー!」



もう、ダメ。
さっきの涙で、あたしの鎧は溶けてしまった。
きっと、もう逃げられない。



彼に惹かれていたのは、紛れも無い事実だから。


明日、法学部の友人にこれは犯罪じゃないのか、聞いてみないと。

 

 

 

 

Fin

 

 

 

back  04/6/13

チャットにて受け攻め占いをやったところ、土岐は鬼畜攻めと相性がいいことが発覚。
勢いで鬼畜リョーマ夢をリク。
家庭教師ってエロ設定の定番だよねv 密室に二人きり・・げへへへ・・・。
いつも無理なリクに応えてくれる土岐に愛を捧げます!ありがとうvv

し、しかもオマケまで書いてくれました・・!感涙・・・。