台風
今年も台風の季節が、来た。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
台風は私をおかしくする。
この時期はひどく不安定で、情緒不安定を低気圧のせいにしたって何も解決しそうもないのだ。
ただ布団に包まって、自分の匂いと清潔なシーツの匂いだけを頼りに精神を集中させる。
薄い羽布団だけを身にまとい、全身の素肌で柔らかな布団の感触を味わう。
台風に巻き込まれたら、それこそ一巻の終わりだ。
木っ端微塵に吹き飛ばされて成層圏の外へ、さようなら。
静かな室内、電気も仄かにしかつけていない。
どぉっどんっ・・・
そこへ時々荒れ狂う風が窓を乱暴に叩いていく。
私は慌ててベッドから起きると、強くカーテンを締めなおす。
だめ!だめ!だめだってば!!こっちに来ないで!!
もう何が駄目なのかも分からない中、私は自分を守るために必死に叫び続けていた。
早く、早く台風の目に入らないと!私が持たない!!
早く!速く!!もっと速く!!
まだバッテリーの暖かい携帯をぎゅっと握り締める。
律儀な彼のことだから、きっとすぐに来るだろう。
この台風の中を律儀に傘を差して走ってくるだろう。
とんとん
びくっとして目を覚ます。
どうやらうたた寝していたらしい。
風の音か、彼か、それとも侵入者か。
判別がつけられず、恐ろしくて布団をきつく身体に巻きつける。
冷房で冷やされた布団がひやりと私を脅す。
それでも、耳を澄ますことも忘れない。
とんとん
音はドアから規則正しく響いてきた。
私は携帯を放り投げて慌ててベッドから飛び降りると、布団を引きずりながらドアの目の前に立った。
「誰?」
「俺だ」
その声が耳に入って鼓膜を揺らした途端、私の身体中に痺れが走った。
震える手でドアをゆっくりと押す。
少しづつ光が部屋に侵入して、眩しい後光に包まれて彼は立っていた。
「入るぞ」
国光は身体中びしょ濡れで、不愉快そうに眉を寄せてはいるが怒ってはいないみたいだった。
それより、ラブホテルの廊下で長いこと待たされたことに恥らっているのだろう。
私の身体を押して中に入る。
その手は冷え切っていた。
「国光、急いで服脱いで!上着だけでもいいから!」
私は彼の腕を引っ張ってベッドまで連れて行く。
「早く早く!」
私が必死になって叫んだので、彼は不思議そうにしながらも上着を脱いだ。
そしえ濡れて重みのある服を椅子にかけながら少し身震いをした。
「それでベッドの真ん中に座って!」
「ベッドが濡れるぞ」
「いいから、大丈夫」
何が大丈夫なのかもよくわからないが、彼は特に何も言わずにベッドの真ん中あたりにあぐらをかいた。
横に立つ私を無言で見つめている。
その視線に促されるように私もそっとベッドに乗り、後ろから彼を抱きしめた。
今まで私だけを包んでいた羽根布団を広げ私と彼を包み込む。
乳房をぎゅうっと押しつけると、冷たい彼の背中に反応して乳首が固くなるのがわかった。
彼の濡れたズボンが私の太ももを濡らすのも気にしないで、ひたすらぎゅーっと彼を抱きしめる。
冷え切っていた国光の背中が、少しづつ暖かくなってきた。
ぬくい、一番私の好きな温度。
単純に言えば人肌。
国光の広い背中、肩甲骨のあたりに頬を摺り寄せる。
あんなに荒れていた私の心はいまやすっかり平静を取り戻しつつあった。
「ありがと国光」
「礼を言われるようなことはしていない筈だが・・・?」
「いいから素直に受け取ってよ」
「お礼にお前をか?」
国光はぎゅっと抱きしめていた私の両腕を掴むと、くるりとこっちを向いてきた。
時々真顔でこういうこと言ってくるから気が抜けない。
「もちろん、どうぞ」
言い終わらない内に唇を塞がれていた。
いつのまに取ったのか、眼鏡のない顔が目の前にある。
その勢いで私を押し倒しひたすらに舌と舌を絡めあった。
国光は濡れて脱ぎづらいズボンをどうにかして脱ぐと、ほっと一息を入れた。
「、・・・」
こんな時にしか私の名前を呼ばない彼のせいか、私の身体は名前を呼ばれるだけで勝手に濡れるようになっていた。
声に犯される。
汗なのか雨なのかわからない液体とぐちゃぐちゃに混ざり合いながら、国光を受け入れる。
「ぅあっ・・・!」
たまらない。
そのたまらない衝撃にもう声をあげることしか出来ない。
停止した思考回路、ぐちゃぐちゃに掻き回される身体。
「・・・」
その声で名前を呼ばれたら。
「もっだめかも・・・!!」
目を覚ますと彼はいなくなっていた。
ぼんやりと起き上がって周りを見渡すと、ベッドサイドの机の上に置手紙があった。
「悪いが先に帰る。たまには晴れた日に呼べ」
思わずくすりと笑いが洩れた。
「だめなの国光、台風の時じゃないと」
だって、彼は台風そのものだから。
力強い風と雨で全てを吹き飛ばして進んでいく台風だから。
ホテルから出ると、外はおかしなくらいいい天気だった。
青々とした空に、まだ雨の気配の残る澄み渡った空気。
水滴の光る緑は美しく輝いている。
台風の後に残された者は、その力で浄化されて一層輝いて見える。
でも台風の影響は大きすぎて、私には受け止める力はない。
だから一年に少し、台風と出会えばそれで充分。
「今度はいつ来るのかな」
きっとまたぐちゃぐちゃにされるのを楽しみにしながら、私の心は次に訪れるであろう夏を待ち侘びていた。
2004/7/5
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