よく

 

 

――隠し事をされた、と思う

 

「いいか越前、次は無いからな」

「・・うぃっす」

図書室への廊下の途中で声が聞こえた。
越前という単語が無ければ聞き逃していただろう。

角を曲がると、一人の男が去っていくのを越前が見送っていた。


「越前、どうしたの?」


「不二先輩!・・・いたんすか?」

驚かせてしまったようだ。

「今通りかかったとこだよ。何かあった?」

「・・・何でもないっすよ」

越前は頭を掻きながら、目を逸らしてそう言った。

 

 

――ばればれなんだけどなぁ

机の上には英語の参考書とノートが開かれている。
受験生らしく勉強をしようとしていた。


――まぁ、特に大した事ではないだろう


委員会に遅れたとか、サボったとか、そんな所だろう。
それは、分かるのだが。

何故こんなに苛つくのか。

 


僕を気遣ったのだろう、心配させない様に。
でも、その気遣いが、僕の心にさざ波を立てる。

気遣いなんていらない。

隠されるべき物なんてない。

何もかも僕にぶつけて欲しい。

全部、僕のせいにしてくれ。

叫んで、泣いて、僕を罵ってくれ。

「全部あんたのせいだ!!」

生まれた事さえも、僕のせいだと言ってくれ。


一寸先は闇、だ。
光り輝いていた心も、すぐに黒で埋め尽くされる。

そうして、そこには越前だけが、毅然と立っている。

 


全く、汚い独占欲だ、と思う。
何をどう勘違いした結果こんな発想が生まれるのかがわからない。

不二は苦笑した。

しかしその考えは、日に日に強く、不二を支配していっている。


――責任を、とらせてくれ


何に対しての責任なのか、それは不二にも分からない。

どうしたらよいのだろう、この気持ちを。
この感情は、嫉妬だろうか?

何に対して?

 

僕の知らない越前を知る全てに対して、だ。

 

不二は自分で自分に呆れた。

「どうしようもないね」

自分がおかしくてたまらない。


どうしたら越前の責任を取れるのか、取らせてもらえるのか。

手塚のように、部長としての責任も無い。
保護者としての責任だって無い。当たり前だ、他人なのだから。


僕は越前に対して何の責任も持っていない。

 

「どうしようかな」

責任を取るには――


「そうだ!あの方法があった」

どうして今まで思いつかなかったのか。
これで責任を取ることが出来る。

安堵の溜息が洩れた。

多少無理矢理になる事が予想されるが、仕方ない。


「越前と僕の子供ならさぞかし可愛いだろうなぁ」


不二はにっこり笑ってそう言うと、殆ど使わなかった参考書とノートを閉じ、パソコンを起動させた。

「そうと決まれば勉強しないとね」

 

 

 

「越前!ちょっといいかな?」

振り返ると、いつも通り笑顔を浮かべた不二がいた。

「なんすか?」

「良かったら日曜うちに来ない?皆出かけちゃうらしくって、寂しいんだ」

「寂しいって、不二先輩・・」

リョーマは心底呆れた。
しかし断るつもりは無い。

「まぁいっすけど」

「じゃあ詳しい事はまた後でね」

不二は爽やかに微笑むと、足早にその場を離れていってしまった。

いつもならもう少し話していくのに・・。
リョーマはなんとなく物足りなさを感じながら、去っていく背中を見送った。

 

 

――作戦開始だ


沸きあがる喜びとスリルに耐え切れずに、大声で笑いそうになる自分を抑えながら、不二は更に足を速めた。


――責任を、取らせて頂きましょう

 

 

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