とおくはなれて

 

 

珍しくリョーマ宛てに手紙がきていた。

――越前リョーマ様へ

葉書の表中央には、余りきれいとは言いがたい字でリョーマの名前がでかでかと書かれていた。
書いた当人の名前は書かれていなかったが、リョーマは誰からの物かすぐに分かった。

裏返す。

右半分は、異国情緒溢れる色彩鮮やかなカラー写真になっていて、左半分は細かな文字でびっしりと埋められていた。
よくある横書き用のポストカードだ。


『いよぉ、越前元気か?おれはもちろん元気だ!こっちは暑くてたまんねぇぞ!そっちはどうだ?』


「元気ですよ、こっちも暑いです」

最初の一文を読むだけで、あちらの空気が伝わってきた。
葉書に向かって満面の笑みを浮かべながら書いたに違いない。
声まで聞こえてくるようだ。

リョーマは嬉々としてこの葉書を書いている彼の様子に笑いながら、返事をした。


『とにかく飯がウマイんだよ!お代わりも自由だから天国だぜ。あと海堂の奴も楽しそうに観光してたぜ、思いっきり笑ってやったけどな!
色々みやげ持って帰りたいんだけどよ、ナマモノはダメらしい。別にちょっとくらいいーじゃねぇか、なぁ?こっそり忍ばせてみるか?』


文脈も何もあったもんじゃない、思いつくままに書いたのだろう。
太目のペンでびっしり走り書きしてあるので、読みづらい事この上ない。

「もっと丁寧に書けよ、・・全く」

ついでに楽しそうにしている海堂を思い浮かべようとしたが、想像力の限界を超えてしまった。
想像したくない、というのもあるが。

更に、

「ナマモノね、何を持ってくるつもりやら・・・」

しかも鞄に忍ばせるとな?
こいつならやりかねない。税関で引っかからなきゃいいけど。

何だか心配になってきたリョーマであった。

 

 


実を言うと、彼が旅立ってからのここ三日間、一度も彼について思い出さなかった。

一学年いなくなった分の仕事は、全て一年に回ってきた。
それにいつも通りのハードな部活。

うるさい先輩がいなくなり、楽になるかと思われた四日間だったが、果たして全く逆の結果のなってしまった。


そこへこの葉書が来ていた。


宛名を見た途端、その葉書は圧倒的存在感を持ってリョーマの手の中で輝き始めた。
それを書いた主も、自然と頭の中に浮かんでくる。

今頃になってやっと、彼がいないということにリョーマは気が付いた。

すぐ、会える所にいない。

彼は今、遠い異国にいる。


『やっべ!くだらない事ばっか書いてたらスペースがもうない!つーかこれおれが帰る前にちゃんと届くのかよ?
帰ったあとだったらなんかマヌケだよな。ま、いっか。んじゃな越前、副部長あんま困らせんなよ!みやげ、期待して待ってろよ!』


葉書は慌ただしく締めくくられていた。

俺がいつ大石先輩を困らせたのさ、むしろいつも困らせているのはあんただろうが。

リョーマは苦笑した。
実際大石は、旅先での二年二人組のことを大変心配しているのだ。

 


じっくりと、一文字一文字を丁寧に読み返す。

「・・・これだけ?」

書けるスペース目一杯に書き込んであるにも関わらず、リョーマは物足りなさを感じた。

もっと書くことがあったんじゃないか?

もっと色々書いて欲しいことがあるのに。


――・・・違う


書いてほしいんじゃない。
今、ここに、居てほしいんだ。

「声が聞きたい」

興奮して話す様子を目の前で見たい。
目を輝かせて、口早に、それでも何とか思いを共感してほしい一心で話す彼を。

 


そばにいてくれないと困るじゃないか、リョーマは思った。


そばにいて、笑っていてくれないと、困るじゃないか。

どんなに忙しくても、埋めることの出来ない部分を埋められるのは、あんただけなんだから。

 


リョーマは椅子から立ち上がると、枕の下に葉書を滑り込ませた。

――ま、気休め程度だけど

やらないよりはましだろう。
リョーマはベッドに倒れこむと、大きく息を吐いた。

「おやすみ」

 

 

back 02/10/3