ゴッド・ハンド

 

 

不二は、寝不足と日頃の疲れが重なり倒れてしまった。

気が付けば保健室である。

その時に頭を打っていたそうで、念の為に救急車が呼ばれていた。
(倒れたのが不二だからというのもある)


――よりによって救急車とはね・・


あぁ、頭が痛い、指先が痺れてぴりぴりする・・・。

他人に囲まれて見下ろされるなんて、最悪なシチュエーションではないか。
痛む頭が更に痛みを増すようだ。

 

 

白い担架を持った白い救急隊員が現れた。

「歩けますから・・」

不二は担架を断ろうとしたが、

「念の為に」

と言われた為しぶしぶと従った。


実際手足は鉛のように重く、立っているだけで辛かった。


白い帽子に白い手袋に白衣、そして手術中でもないのに白いマスク。
更に二人揃って似たような眼鏡を着けた隊員の表情は、全く窺えなかった。

不二の中からは、担架が揺れるたびに何か低く暗い感情が溢れ出た。


――ひょっとしたら僕は死ぬのかもしれない


だからだろうか、この浮遊感は。さっきから身体がふわふわと落ち着かない。


車に乗せられると中央に寝かせられる。
白い照明が眩しい。

一人は運転席の方へ行ってしまった。
背の高い方が左横に座る。

救急車の中身は外見を裏切らずに白い。


この際だからしっかり見ておこうと辺りを見回した時、横にいる隊員が眼に留まった。

目深にかぶっている帽子から右斜め前に、きれいな髪が流れるようにはみだしている。
眼鏡の奥の切れ長の瞳を捉えた。


「・・・手塚?」


「何だ?どこか痛いのか?」

どこか痛いからこうして救急車に乗っているというのに・・・。
その質問はまさに愚問というやつだ。
(しかし無骨な優しさを感じる)


確かに手塚だった。驚いて上手く頭が回らない。

「何故君が?」

手塚は露骨に顔をしかめた。
いつの間にかマスクも手袋も全てはずしている。

「お前が望んだことだろう」

「・・僕が?」

手塚だと分かった瞬間よりもこちらの方が驚きだった。

「そうだ」

手塚はそれ以上は何も言わずに口を閉じた。

 


――僕が手塚を望んだとはどういう事だろう


口下手で無表情。病気の時に傍に居て欲しいと思える人物ではない。

ちらりと視線をやれば、当人は相変わらず何を考えているのか分からない顔で前を見ていた。


――もう訳が分からない


不二は考えることに疲れて目を閉じた。
瞼を閉じても白すぎる光が瞳に突き刺さる。

眠れやしない。

 


急に目の前が暗くなったかと思うと、額に手が降ってきた。
しっとり暖かい。

不二の顔全体を覆えてしまいそうに大きい。


不二は、突然だが、自分がかなり不安を感じていた事に気が付いた。


大きくゆっくりと息を吐く。

「このままでいてくれるかな手塚」

離れそうな気配を見せた手を軽く抑える。

「・・・起きてたのか」

「うん。寝るまでこうしててもらえる?」

 

  気持ちいいから。

 

「他にして欲しいことは?」

「これで充分」

 

手塚は傍にいて心が安らぐような相手ではない、が


――こいつになら命を任せられるかな


不二は、手塚の手によって作られた温かい闇を見つめながら眠りについた。

 

 

back 02/9/15