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部活終了後の部室で、手塚は部誌を書いていた。
薬
手塚は今日熱があった。 「…とりあえず、部誌を提出して来るか」 帰って来た時には、皆帰っているだろう。
そうして帰ってくると。 「部長、遅いっスよ」 学ラン姿の越前リョーマが居た。
「何をしているんだ。さっさと帰れ」 「まぁ、用事が済んだら帰りますよ」
そして手塚に近づいて、チョイチョイと小さく手招きをする。
「何だ?」
屈むとリョーマが額を合わせて来た。
「やっぱり。部長、熱ある」
近くに居るのを考慮してか、リョーマは囁く様に告げた。
「どうしてそんなに真面目なんスか」
呆れた様に見つめてくる。
「1日休めば治るんスから、その後で1日分取り戻せば良いでしょ。何か要領悪いっスよ」
呆れた様に呟いて、リョーマは鞄から風邪薬を取り出した。
「これ、効きますから」
それだけ言って、リョーマは部室を後にした。 手塚は茫然とその背が扉の向こうに消えるのを見送ると、苦笑してその薬を見つめた。
「あいつは…」
何と気紛れな行為で、こうも自分を翻弄してくれるのだ。 見覚えのある色素の薄い髪と、ツンツンした黒い髪と、艶めく黒髪が視界に入ってきた。
「ゴホッゴホッッゲホッ…グッホ」
茶を吹き出している手塚にリョーマが慌てて部室の中に駆け込み、その背を擦る。
「大丈夫っスか…?」
いつの間に、こんな気遣いが出来るようになったのだろう、と手塚は思う。
「大丈夫だ…。それよりお前達。帰ったんじゃなかったのか?」
不二や乾も含めて問い正す。
「この薬くれたの、乾先輩っス」 「手塚、飲まないのかい?」
乾が眼鏡の奥でどの様な目をして自分を見ているのか。 しかし。
「大丈夫だよ、乾。手塚が部員から貰ったものを粗末に出来っこないもの」
不二がいつもと同じ様に笑う。
「……飲むから、そんなに見るな」
手塚、完全に作戦負けである。
「ねぇ、手塚。何ともない?こう好きな人への気持ち、溢れてこない?」 「いや…?」 「部長!あの…っ」 何かをリョーマが言いかけた、その時。
「……何を入れた」 「効いてきたみたいだね。じゃあ、越前。後は君次第だ」 「越前君、頑張ってね」
そう2人は出て行ってしまう。
「越前…?」 「部長が好き」
突然告げられた想いに手塚の目元が微かに赤くなった。
「部長はいつもポーカーフェイスだから…」
本当の気持ちが知りたくて……
「そしたら乾先輩が………この薬を飲めば嘘を吐けなくなるって譲ってくれたんス」
リョーマは告げる。
「あの、身体に害はないって言われて、風邪にも効くからって…」
リョーマは萎縮した様にたどたどしく言葉を紡ぐ。
「馬鹿だな、お前は」 「…ごめんなさい」 「そんなことしなくても、俺は……」
「ねぇ、乾。そんなに都合の良い薬ってあるの?」 「ある訳ないだろう」 帰途で不二が尋ねると、街灯に眼鏡をキラリと光らせ、乾は笑う。 「あれはちょっとした心理操作だ。俺達2人が揃ったら、何かやるだろうて思っているから騙せたんだ。 あれはビタミン剤だよ、と小瓶を出して、不二に渡す。 「乾は確信犯だね。手塚の気持ち知ってたんでしょ?」 「越前が流石に哀れになっただけさ」 「嘘吐き。データの為でしょ」 2人は爽やかに黒い笑みを浮かべた。 「ねぇ、英二にも試さない?」 「ああ。お前が協力したのは、手塚で試したかったからか」 「そういうことだね。乾も海堂で実行するんでしょ?」 クスクス…と笑う。 「勿論」
菊丸英二と海堂薫の為に試金石となった者達など、頭の中から消して、2人はそれぞれの想い人に想いを馳せるのであった。
Fin
土岐時雨さまより戴きましたもの。 黒い人達も素敵です。青学に栄光あれ!
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