部活終了後の部室で、手塚は部誌を書いていた。
部員は1年が片付けで残っているだけだ。
この部誌を竜崎に渡して、部室の鍵を閉めれば、手塚も晴れてお役御免である。

 

 

 

 

 

 

手塚は今日熱があった。
しかし、生徒会でも大切な会議があったし、部活も気になって結局休めなかったのだ。

「…とりあえず、部誌を提出して来るか」

帰って来た時には、皆帰っているだろう。

 

 

そうして帰ってくると。

「部長、遅いっスよ」

学ラン姿の越前リョーマが居た。

 

「何をしているんだ。さっさと帰れ」

「まぁ、用事が済んだら帰りますよ」

 

そして手塚に近づいて、チョイチョイと小さく手招きをする。
屈めという意味らしい。

 

「何だ?」

 

屈むとリョーマが額を合わせて来た。
手塚の心臓が跳ねる。

 

「やっぱり。部長、熱ある」

 

近くに居るのを考慮してか、リョーマは囁く様に告げた。

 

「どうしてそんなに真面目なんスか」

 

呆れた様に見つめてくる。

 

「1日休めば治るんスから、その後で1日分取り戻せば良いでしょ。何か要領悪いっスよ」

 

呆れた様に呟いて、リョーマは鞄から風邪薬を取り出した。

 

「これ、効きますから」

 

それだけ言って、リョーマは部室を後にした。

手塚は茫然とその背が扉の向こうに消えるのを見送ると、苦笑してその薬を見つめた。
こんなに嬉しいことを。
気付いてやっているのか、否か。
誰も居ないのを良いことに、手塚はポーカーフェイスを崩した。

 

「あいつは…」

 

何と気紛れな行為で、こうも自分を翻弄してくれるのだ。
手塚は持参していた玉露を水筒の蓋に注ぐ。
コポコポコポ……
小さな部室の明かりに反射して、緑の液体が輝く。
貰った薬を含み、茶に口を付けたその時。

見覚えのある色素の薄い髪と、ツンツンした黒い髪と、艶めく黒髪が視界に入ってきた。
窓の外から覗いているのだ。
思わずゴクリ、と茶を飲み込むが、気管に入ってしまい、ぐっと咳込む。

 

「ゴホッゴホッッゲホッ…グッホ」

 

茶を吹き出している手塚にリョーマが慌てて部室の中に駆け込み、その背を擦る。

 

「大丈夫っスか…?」

 

いつの間に、こんな気遣いが出来るようになったのだろう、と手塚は思う。
入学してきた時は我が侭なだけだった様な気がする。
しかし、自分が惚れたリョーマはこういう優しさを既に持っていた。

 

「大丈夫だ…。それよりお前達。帰ったんじゃなかったのか?」

 

不二や乾も含めて問い正す。

 

「この薬くれたの、乾先輩っス」

「手塚、飲まないのかい?」

 

乾が眼鏡の奥でどの様な目をして自分を見ているのか。
手塚は怖くなる。

しかし。

 

「大丈夫だよ、乾。手塚が部員から貰ったものを粗末に出来っこないもの」

 

不二がいつもと同じ様に笑う。
リョーマはその台詞に尊敬の眼差しを向けてくる。

 

「……飲むから、そんなに見るな」

 

手塚、完全に作戦負けである。

 

「ねぇ、手塚。何ともない?こう好きな人への気持ち、溢れてこない?」

「いや…?」

「部長!あの…っ」

何かをリョーマが言いかけた、その時。
リョーマに対する愛しさが、手塚の中で弾けた。
熱に浮かされているのか。
しかし、こうも突然…?

 

「……何を入れた」

「効いてきたみたいだね。じゃあ、越前。後は君次第だ」

「越前君、頑張ってね」

 

そう2人は出て行ってしまう。

 

「越前…?」

「部長が好き」

 

突然告げられた想いに手塚の目元が微かに赤くなった。

 

「部長はいつもポーカーフェイスだから…」

 

本当の気持ちが知りたくて……

 

「そしたら乾先輩が………この薬を飲めば嘘を吐けなくなるって譲ってくれたんス」

 

リョーマは告げる。

 

「あの、身体に害はないって言われて、風邪にも効くからって…」

 

リョーマは萎縮した様にたどたどしく言葉を紡ぐ。

 

「馬鹿だな、お前は」

「…ごめんなさい」

「そんなことしなくても、俺は……」

 

 

 

 

 

「ねぇ、乾。そんなに都合の良い薬ってあるの?」

「ある訳ないだろう」

帰途で不二が尋ねると、街灯に眼鏡をキラリと光らせ、乾は笑う。

「あれはちょっとした心理操作だ。俺達2人が揃ったら、何かやるだろうて思っているから騙せたんだ。
自己暗示っていうのかな。案の定、素直に越前に対する気持ちを言っただろう?」

あれはビタミン剤だよ、と小瓶を出して、不二に渡す。

「乾は確信犯だね。手塚の気持ち知ってたんでしょ?」

「越前が流石に哀れになっただけさ」

「嘘吐き。データの為でしょ」

2人は爽やかに黒い笑みを浮かべた。

「ねぇ、英二にも試さない?」

「ああ。お前が協力したのは、手塚で試したかったからか」

「そういうことだね。乾も海堂で実行するんでしょ?」

クスクス…と笑う。

「勿論」

 

菊丸英二と海堂薫の為に試金石となった者達など、頭の中から消して、2人はそれぞれの想い人に想いを馳せるのであった。

 

 

 

 

Fin

 

 

 


土岐時雨さまより戴きましたもの。
「お茶をふく手塚を」
というリクに心意気で応えてくれた土岐に乾杯☆

黒い人達も素敵です。青学に栄光あれ!

 

 

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