濛雨_じっとりと湿った大気

 

 

「止まれ!おい、止まれっつてんだろ越前リョーマ!」

リョーマは走るようにしてすいすいと住宅街の細い道を歩いている。
迷路のような住宅街の道に、跡部はリョーマを追うので精一杯だ。


よく晴れた夕方、彩度の高いオレンジが世界を支配する時。
リョーマが最も好む時間帯。


昼でも夜でもない中途半端で、甘く薄い空気の時間。

 

跡部は女と一緒に街を歩いていた。
勝手に絡み付いてきた腕も、胸の感触に免じて何も言わずに放っておいた。

そうしてたまたま会ってしまったリョーマ。

跡部はなんとなく自分の頬が引きつるのを感じながらも、それを無理矢理隠していつもどおりの挨拶を。

「よぉ、青学一年」

「ドーモ、氷帝部長」

リョーマは大きな目を見開いて更に大きくし、すっと跡部の横にいる女に視線を移してからぼそりと挨拶を返した。

「あーん?跡部景吾だ跡部景吾。いい加減名前くらい覚えてんだろ」

「・・さぁ?あんたの名前なんかどうでもいいし」

「・・・なんだと」


「どうでもいいよあんたの名前なんか」


リョーマは跡部の横を見ながら無関心そうに答えている。

「それはどういう意味だ?」

見る見るうちに空気が張り詰めていくのを二人は感じた。

「おいお前、もう帰れ」

跡部はリョーマから目を逸らさずに女に言った。
まるで目を離した瞬間リョーマが逃げ出してしまうと思ってでもいるかのように。

事実、リョーマは素早く駆け出していた。

「・・っ!待ちやがれ!!」

 

狭い路地を曲がったところで、逃げられないと悟ったのかリョーマは立ち止まっていた。
時折聞こえてくる子供達の楽しそうな嬌声に紛らわすように、跡部とリョーマは荒い呼吸を押し殺している。

眩しい夕日は家屋に遮られ、光に慣らされた目にそこは真っ暗闇のように映った。

じっとりと濡れた背中を意識しながら跡部が口を開こうとした時、リョーマが遮るように声を発した。


「もう会いたくない」


リョーマは跡部の目をしっかり見定めて言い放つと、くるりと踵を返して走り出した。
その小さな後ろ姿は路地で曲がったきりふっと見えなくなる。

跡部はというと、あっけにとられたまま動けずにいた。

 

「・・・・あ?」

跡部がやっとリョーマの心に追いつきに短く声を発した頃、本体はすぐ傍で息を殺して雨が止むのを待っていた。

 

 

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