自然発生的微笑

 

 

急に日の光が遮られた。


「越前」


ふり返るだけでは俺の顔を見ることのできない越前は、面倒くさそうに顔を上げた。

「・・・なんすか、乾先輩」

「今日フォロースルーが少し鈍かったけど、どうかしたのか?」

越前は少し目を見開くと、帽子のつばを下げて、ふいと横を向いてしまった。

「なんでもないっすよ」

明らかに声が硬くなった。
このトーンの時の越前は、大概少し怒っている。

さてどうしようか。


「・・・何笑ってんすか」

横上目でじろりと睨み上げられた。
無意識に顔が笑っていたらしい。


「越前こそ、なんで怒ってるんだ?」

「別に・・怒ってないですけど」

今度はむっとした表情をして下を向いてしまった。
俺からは全く越前の表情がうかがえなくなる。

つまり、越前からも俺の表情を見ることはできない。


笑いが深まるのを感じた。

 

「・・怒って、ないんだ・・・?」

 

俺は前かがみになって越前の耳に囁いた。

越前はびくりと体を震わせると、素早く顔を上げた。


かちゃんっ


「いっつ・・・」

俺の顔は、もちろん越前の顔の目の前にあったため、帽子のつばが眼鏡に直撃し落下した。

「げっ!割れた・・・!?」

越前は素早く眼鏡を拾い、手の中でくるくる回して無事を確認すると、ようやく俺を見上げた。
もう少し俺の心配もしてほしい、が。

 

――全く計算通りだ

 

俺は顔を覆っていた手を下ろすと、素早く越前にキスをした。

そしてあっけにとられている越前の手から眼鏡を受け取り、わざとゆっくりとした動作で眼鏡をかけた。

「良かった、怒ってなくて」

越前と目を合わせ、自分では滅多にしない笑顔を作って言う。


越前の顔が見る間に赤く染まった。


「怒ってますよ!昨日といい今日といい・・・!くそっ!!」


越前はくるりと向きを変えると、すたすたと歩いていってしまった。
(歩くというよりはむしろ走るほうに近かったが)

俺の口元は越前の後姿が小さくなるにつれて、逆に大きく弧を描いていった。

 

 

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