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どうにも最近、調子が出ない。 その原因が何なのか、それが判ればこうも悩まされないのだが。
手塚は空を仰いだ。
in the tenniscourt
空に舞う鳥。 九州は聞いていたより何でもあって、思っていたより自分の肌に合った。
空は異様なまでに、青い。 しかし、東京の空を思い出そうとすると、甦るのは、夕焼け空だ。
空なんて見ている暇は、無かった。
それは現在も同じで。 遠い東で、仲間達は着実に力をつけていって。 呆けていて抜かれる可能性が低いとは決して思えない。 彼らを甘く見たことなんて無い。
でも、今は空を仰ぐ。
山の麓で借りたテニスコートは余り良い状態とは言えなくて。 誰にも邪魔されずに練習出来る―――練習相手が居ないというのもそれはそれで困るのだが、下手な相手とやるよりは余程良い。 人里離れたテニスコートは最近己の居場所として心地よい空気を纏うようになった。 なのに、どうもここ一週間。 その空気が重い。 しかしそれを調子の悪い理由には使えなかった。
「……何故だろうな」
溜息と共に、吐き出されたものは何であろう。
再び空を仰ぐと汗が項を伝って、背中へと落ちた。
「何してんだよ」
その声は空に響く。 手塚の肩がひくりと揺れた。 ただ、思い出そうとしていた空と共にある人の唐突な出現に吃驚しただけで。 彼に動揺した訳ではない。
「何をしに来た」
振り向かずにそう聞けば、彼―――跡部が軽く舌打ちする。 懐かしい仕種だ。 いつもそうして跡部は自分を主張する。
跡部にとって、彼の予想の範疇に納まらない事は、不機嫌の種だ。
まだまだ子供だと思う。
「……何しに来たと思う?」
まだまだ子供の彼だが、彼は話術というものを心得ていて。 手塚は自分の感情を表す言葉を捜して、それが見つからず結局沈黙で返す。 跡部はその話術で彼の気持ちを誤魔化す。
互いに感情を表すのは下手なのだろう。
ただ、手塚は自分でそれに気付いているが、跡部は気付いていない。 だから、跡部より、手塚の方が有利になるのだ。
「俺に会いに来たんだろう」
そう言ってやれば、跡部の視線が揺れるのが判る。
振り向くだけで、跡部の機嫌は良くなると知っているが、もう少しだけいじめたい。 手塚はそんな自分に苦笑して、しかし、これ以上無駄なちょっかいを掛けると、彼の機嫌は急降下の一途を辿る。 それは勘弁願いたい。
「違うのか?」
振り向けば、彼がにやりと笑った。
「違わねぇよ」
跡部が近寄って来る。 いつもはそれをただ見てるだけだ。
だが。
「?」
一歩 二歩
跡部に近づいて、その右目の下の黒子を舐めた。
「 」
溜息と共に吐き出してしまった言葉はやはり音として存在はしなかったが、きっと伝わっている。
その証拠に跡部からのキスだ。
お互い貪るように口付けて、唾液を交換し。 手塚の手の一部のようだったラケットがからん、と音を立てた。
まだ空も青い時間に獣のようなキスをして、初夏の熱に灼かれたテニスコートの上で、手塚と跡部は己の身体も心も焦がすように。
ただ、求め合った。
何て性急なことをしてしまった、と手塚は寝ている跡部の黒子を指先で触りながら思った。 眠っている跡部に苦笑して。
神聖なるテニスコートで。 真昼間から。 可能性は低いとはいえ、人目に付く可能性が皆無ではない屋外で。
どうやら自分も子供のようだ―――やっていることは大人だが。
そうして、気付く。
日が暮れかかっていることに。 もうコートを後にしなければならない。
「跡部、起きろ」
意外に良い寝起きに事情を説明して、コートを出る準備をする。
「おい、行くぞ」
振り向けば、跡部がただそこに立っていた。
夕日を背に。 まっすぐ手塚を見ていた。
「……会いたかったぜ」
気付けば簡単なことだった。 彼と暫く会っていない、そう気付いたから調子が落ちた。 これまでは必死だったから、跡部の事を思い出す余裕なんて無かった。 だが、手塚にも居心地の良い場所が出来て。
そうして跡部を思い出してしまった。
何故か夕日の下で会うことの多い恋人を。
「俺もだ」
Fin
以前やってたサイトの3万打記念にまたもや相互リク(笑)
夕焼け小焼けで日が暮れて、また明日会える。 2004/4/24
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