暖冬
リョーマは散歩をしていた。 見渡す限り一面の畑で、その真ん中をくねくねと細く伸びる道を歩いている。 畑には大根、キャベツ、かぼちゃ、人参などが植えられていた。
真っ直ぐ伸びている様に見える道も、カーブしたり、坂道になったりしている様で、終わりが全く見えない。 一体この道に終点はあるのだろうか。 辺りは静かで、時折鳴く鳥の声が木々の間に木霊していた。
空は青く、どこまでも続いていた。
陽気に誘われるように出かけたリョーマは、今まで乗った事もない電車に揺られて小一時間、山道を歩いて小一時間、そうして現在に至っている。 散歩と言うよりも、そろそろ遭難の域に近づきつつあるのだが、
大きく緩やかなカーブを曲がりきると、目の前に大きな平屋が出現した。
あっさりと終点が見つかったことに拍子抜けしながらも、リョーマは家の裏手に回ってみた。 ――道が家を突き抜けて続いてるかもしれない
リョ―マは自分の背よりも高いとうもろこしを掻き分けながら奥へ進んだ。 目の前が開けると、そこには空と、またもや畑が広がっていた。 とうもろこしに隠れていただけで思ったよりも広い畑だった。
麦わら帽子をかぶり、首には手拭い、白いシャツの袖をまくっている。 特にどうといったことのない、畑仕事の標準スタイルである。
随分と若い。しっかりとした肩に、すらりと伸びた足。
「ぶっ、部長?!」
ゆっくりと振り返ったその人は、確かに手塚の声で 「――越前?こんな所で何をしている」 と言った。 麦わら帽子の作る影が、顔に濃く陰を落としている。
「散歩ですけど・・、部長こそ何してんすか・・・?」 手塚は、泥だらけの手の甲で額をぬぐった。 「見れば分かるだろう、大根の収穫をしている」 片手には泥だらけの大根を持っている。
「はぁ・・」 リョーマはただ頷くことしか出来なかった。
ひたすらに大根を抜いていく。 リョーマは話している内に大体の事情が掴めた。 この林の奥には絶好の釣りのポイントがあり、その帰りにここで御飯をご馳走になったので、そのお礼に畑仕事を手伝う。 という事が恒常化しているらしい。 近頃では釣りではなく畑仕事をしにここまで来ているらしい。
リョーマと手塚は大層感謝され、お礼のお礼に大量の大根を貰った。
二人は両手に大根の目一杯入ったビニール袋を持ちながら、山道を戻っていた。山間にこおろぎの鳴き声が響いている。 「近所の人にでも配るんだな」 「・・・そうっすね」 果たして配りきれるであろうか。 リョーマは両手の大根を見下ろしてから、後ろを振りかえってみた。
「越前」 そんな事を考えていたらタイミングよく話しかけられた。 「へぁい?」 その為びっくりして上手く声にならなかったが、手塚は特に気にしていないようだった。 二人は一旦足を止めた。 「今日は手伝わせて済まなかったな。助かった」 手塚は左手に荷物をまとめると、空いた右手でリョーマの頭を優しくなでた。 とても柔らかい表情をしている。
――ただし、
繋いだ手を通してじんわりと、その温かさがうつってきた。
――今年の冬は温かく過ごせそうだ
リョーマはにやりと笑った。
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