赤と黒

 

 

遠くには仄かな赤い光。
暗い空と海の狭間で燃えている。


見張り台から下を見下ろす。

明かりの消えた甲板には、クルーが全員いるはずだ。

ルフィはなんとなく、ひとりひとり確認してみた。


白いシャツ、あれはゾロだろう。
しかし彼のシンボルとも言える緑の髪は、闇に飲まれて蒼く染まっている。
ときおり揺れるピアスが、月の光を反射してはその存在を主張していた。


その後ろ、金の髪、あれはサンジだ。
暗い中でも静かに光を放っている。煙草の灯もしかり、だ。
スーツが黒いせいで首から上だけが浮いているように見えておかしくなった。


そのさらに後ろにいる、全体的に白い、というより肌が輝いているのはナミ。
橙色の暖かい髪は、闇に飲まれ赤黒く見える。
一人だけ肌の露出が多いせいか、甲板のそこだけ明るく見えた。


その横に、ウソップ。
ゴーグルが光を反射して、時折きらりと光る。薄い色のバンダナもぼんやりと明るい。
筋肉のついた丸い肩の上で、月の光が汗を輝かせていた。


そしてその下にはチョッパーだろう、角が光っている。
そのやわらかい体とは裏腹な、鋭く硬質な角だけがぼんやりと輝いていた。
青い鼻はすっかり闇と同調している。なんとなく赤い鼻のチョッパーならどうだろうと考えて、止めた。

最後は


ロビン。


彼女の漆黒の髪は、闇をきれいに吸い上げて染まっている。
ナミと違い露出も少なく、明るい色の服を着ていなかった。

ルフィは目を凝らして甲板を見渡す。

しんとした空間。

隅と隅が作り出す暗黒の世界。
そこにロビンがいるかもしれない。

だから、見つからない。


「ロビン!!」


一斉に視線が集中したのを気配で感じる。
一拍間をおいて、返事があった。

「こっちにゃいねぇよ」

サンジが答えた。

「なんでだ」

「・・・お前はなんでそこにいるんだ?」

サンジはそれには答えずに、いらついた様子で煙草の煙を吐き出した。

ルフィはふと我に返った。


――なんでここにいるんだ?


ぼんやりとした頭で考える。
遠くで燃える炎を見つめた。


かたんっ


太い柱の向こうに気配が生まれた。
ひょいと覗くと、ロビンが立ち上がってこちらを見ていた。

乱れた髪の隙間から見える、瞳は赤い光を弾いてきらきらと輝いている。
開かれている白い胸元は、不思議なほど光を放っていた。

ルフィは思わず手を伸ばした。

そっと鎖骨に触れ、そのままシャツの下の肩へと手を移動させると、肩をすっぽりと覆った。
ゆっくりとさするようにして肩を撫でる。
さらりとした感触に、ルフィはいま触っている肩の形をまぶたの裏で創造する。

さぞかしきれいな曲線を描くに違いない。

「いままでここにいたのか?」

ルフィは目を開けると、手はそのままでロビンを見つめた。


「えぇ、ずっと、ここに」


「そっか」

ルフィはすっと手を引くと、ロビンの頬を手の甲で撫ぜた。

「ありがとな」

ロビンはにっこりと、それは嬉しそうに笑った。
その唇からこぼれる輝きに、結局ルフィはロビンから目を逸らすことが出来ずじまいだ。

 

03/6/14

 

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