ゾロは弱冠19歳にして社長を務めている。
他企業への外回りで疲れ果てていたゾロの目に、小さな公園が映った。 ――ちょっと休むか 日なたで暖かそうにしているベンチを見た途端に押し寄せてきた眠気に負けて、 急に寒気を感じて目が覚めたゾロは、 「・・・っておい!」 叫びながら慌てて身を起こしたゾロの上から、何かがずり落ちていった。
「そりゃ、オレのことか?」 「他にいないだろ」 少年はジッパーを上げながら、しししっ、と不思議な笑い声をあげた。 ――それにしたって死人にまで間違われるとは・・・ ゾロはそこでふと、少年の着ているジャンパーに目がとまった。 死んでる奴に上着を掛けるかフツー? ゾロは、ポケットに両手を突っ込んでにこにこ笑いながら自分を見ている少年を見つめた。 「おい・・・」 「ところであんた、これからヒマ?」
「仕事?」 少年はゾロに目線を合わせながら聞いてくる。 「いや」 腕時計は待ち合わせの時間を大幅に過ぎた所を指し示していた。 「遊び?」 「・・・・・いや」 遊びどころかこれから詫びの電話をいれなければならない。 「なんだそりゃ?結局ヒマじゃねぇか!」 少年はおかしそうに笑うと、ポケットに閉まっていた両手を出してゾロを無理矢理立たせた。 「んじゃ行くぞ!!」
そうして連れて行かれたのはすぐ近くの大きな温室だった。 この付近を自分の庭の様に思っていたゾロは、ビルとビルの隙間に隠れるようにして建っている温室にかなり驚かされた。 このビル街の只中にあって優に100坪はありそうである。 中は高い天井いっぱいに青々と葉をしげらせた植物で埋まっている。 ただ不思議なことに、花だけは一つも見当たらなかった。
――いや、ひとつだけあるな 少年 ―ルフィ― は常に自然にそこに存在していた。 人に警戒心というものを感じさせない不思議な少年だ。 それになぜルフィが自分をここに連れてきたのかもわからないのである。 ルフィに聞いても的外れな答えが返ってくるだけだった。 (最初は聞かれたくなくてはぐらかしているのかと思ったゾロだったが、それがどの会話においても常にそうだったため、今では認識を改めている) 誰も来ることのない温室で、一人静かに住むルフィはまるで花のような印象をゾロに与えた。 「・・・人よりも植物に近ぇな・・・」 「なんか言ったか〜?」 「何でもない・・・・」 ゾロはルフィの膝の上でゆっくりと、再び温かい眠りの世界に戻っていった。
――こりゃ死ぬな そう思ったルフィは、相手の肩を軽く叩いてみた。 あたりが赤く染まり始めた頃になって、くしゃみを一つして彼は目覚めた。
彼は一通り温室を見終わると、天井からルフィに目を移して聞いた。 「おう!あとおれはルフィだ!よろしくな!!」 ルフィはそう言うと、元気よく手を差し出した。 「ああ、オレはゾロだ」 ゾロも、社会に出て以来生まれた条件反射で、素早くルフィの手を握った。 ルフィは握り返してくれた喜びからぶんぶん腕をふると、手を振っているままの勢いで喋りだした。 「次からはここで寝ろよ!外さみぃだろ」 そう言うと彼は、 「ありがとな」 と言って照れたように笑った。
――ま、実際オレと二つしか変わんなかったけど 自分の膝の上で眠っているゾロの額をそっとなでると、ルフィは声を立てないように笑った。 ――なーんで連れて来ちゃったかな〜? ルフィは、よくわからないが、ゾロを見た時に何かを予感した。 今ではそれは確信に変わっている。 「―――――−・・・・・・」 「ん?なんか言ったか〜?」 「何でもねぇ・・・・」 ゾロはうっすらと開けた目を閉じると、またすぐに寝息を立て始めた。 ルフィはなんだか嬉しくなってしまい、にやにや笑いながらゾロに軽くでこピンをした。
君がこうしてここにいてくれることが、こんなにも嬉しい。
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