つかまえて、早くつかまえて。
ひきとめて、すぐにひきとめて。
ふれていて、いつもふれていて。

でも――

なれないで、恋になれないで。

 

 

告白の行方

 

 

砂浜が、夕日を浴びて輝いている。
ナミの髪の毛みたいだなぁ、とルフィは思った。
風に巻き上げられた細かい砂が、ちらちらと光りながら目の前を通り過ぎていく。 伸ばした手で光を掴んでみたけれど、手のひらには白い砂粒が乗っているだけだった。
やっぱりナミみたいだなぁ、とルフィは思う。

遠くに小さくナミの姿は見えていて、走って行けばすぐの距離だ。
でも、今はゆっくり歩いていきたい。なぜだか分からないけど。
ナミだってこちらに気付いているはずなのに、見えない振りをしてる。
風に合わせて体を揺らしているように見えるから、歌っているのかな。

何の歌だろう。

強い風が吹いて、砂を一層強く空へ引き上げた。
その中に、いつか砂漠の国で見た水色が浮かんで消える。
砂嵐が収まってつむっていた目を開けると、ナミの姿が遠くなっている気がした。

あと少しだったのに。

白い、長いスカートが、風を受けてマストのようになびいている。
それを見ていたら、ナミは一人でも航海できるってことを思い出した。
ずっと一人でいたってことを思い出した。
さっきより歩幅を大きくして砂を踏むと、音を立てて砂が舞い散った。
白いうなじが光っている。ほんの一歩で触れることができる距離だ。

どうしてやろうか。

「それ以上、近寄ったらぶっ飛ばすわよ」

手を伸ばそうとしたら、横顔を見せたままナミが言った。
ぶっ飛ばされるのはヤダから、大人しく頷いておく。
ナミは横目ですらルフィを見ない。

「言わなきゃ分かんないだろうから一応言っとくけど……私、怒ってるのよ?」

少しでも分かってることを伝えたくて、ルフィは音がするくらい首を振った。
夕日を見つめていた瞳を伏せる一瞬、ナミがこちらを見たような気がした。
嬉しくて、ルフィはつい髪に触れてしまった。何度も何度も手を滑らせてしまった。
ナミの長い睫毛が微かに震えて。

「どうして、あんなことしたの」

あんなこと。
それは、さっき甲板でキスしたことを言っているんだろうか。
夕日を浴びたナミがすごくキレイに見えて、すごく幸せな気持ちになったから。
初めてキスしたことを?

今だって、すぐにキスしたいのに。

髪に指を通して、頭を支えた。ルフィの片手に収まる小さな頭だ。
ナミは、目をつむってルフィを見ないようにしている。
唇が小さく動いて、言葉を紡ぎだす。ルフィは引き寄せられるように唇を見た。

「ずるい」

そっと自分の唇を合わせてみる。
また、ナミの唇がずるい、と動いた。

ずるいのはナミだ、とルフィは思う。
そんなに息を吹き込まれたら、もっとキスしたくなるじゃないか。
勝手に身体が動くのはお前のせいなのに。
こんなんじゃ何も言えない、ナミのことしか考えられない。

だけど、なるべく優しく、でも逃げられないように強く。
強く、抱きしめる。
ナミが吐息を漏らすと、ルフィの手が応えるように背中をすべる。

ずるい、ずるい二人がキスをする。

 

 

つかまえて、早くつかまえて。
ひきとめて、すぐにひきとめて。
ふれていて、いつもふれていて。

でも――

いわないで、その言葉はいわないで。

 

 

04/11/14

 

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