だるまさんが転んだ

 

 

うっそうと茂る木立を抜けると、夕焼けが鋭く目を射した。
カカシはその眩しさに思わず目を細める。


かさり


赤々と燃える丘には、男が座っていた。

髪の毛はおかしなほど揃えてあるおかっぱ頭。
体育座りで綺麗に背筋を伸ばしている。


さわさわ


意外に柔らかいガイの髪が風に揺れていた。
カカシは全く気配を消さずに、ガイの背中を目指して一歩前へ進んだ。


ざくり


春のこの時期に夕焼けが美しい丘。
この丘にカカシがいればどこからともなくガイが現れ、ガイが居ればカカシがふらりと現れる。

ガイは気づいていないはずもないのに、振り向く気配を見せずにただ一心に夕焼けを見つめている。

カカシはそんなガイの気配を全身で聞きながら、一歩一歩草を踏みしめ近づく。
先ほどまで静かに脈打っていた心臓が今は息苦しくなるくらいに速い。


さく
振り向くか。

さく
振り向くか。

さく
振り向くか。



――ま、多分夕焼けすら目に入ってないんだろーけど


カカシは軽く嘆息を洩らすと、ガイからぴったり1m後ろで足を止めた。

この男は時々こういう風になる。
開いた目に見えず、閉じることの出来ぬ耳に聞こえず、触れているのに触らず、体中の神経に感じず。
ただ思っている。

いつだったか「人の話を聞いているのか」と怒った男と同一人物とは思えないほどに、カカシを透明人間のように扱う時がある。

何を思っているのかはわからない。
里のことだとか、生徒のことだとか、自分のことだとか、その他諸々、ひょっとしたら今日の夕飯のこととか。
推理することはいくらでもできるけれど真実からは程遠いのだろう。

目を細めてガイの背中を見つめるカカシの表情は伺えない。
ガイの表情は何も映していない。


がさり


カカシはポケットから手を抜くと、忍者とは思えないほど緩慢な動きでガイと背中合わせに座った。
あぐらをかいて座ったが、何を思ったのかよいしょと身体を動かすと、体育座りをした。
しかしガイとは違いかなり猫背ぎみに体重を背中に預けて。

厚い忍服を通して伝わってくるものは重みのみだ。
固かった背中は次第に柔らかみを帯びて、終いにはカカシと同じように猫背になって、体重を背中に預けてきた。

これが今の所のお互いの位置。


『お前には背中を預ける』


結局この熱い男と自分は似たもの同士なのかもしれないな、とカカシはぼんやりと思った。
いつだって、表裏一体にお互いを映しあう、目に見えない透明な鏡が二人の前にあるようだ。

ガイの背中ほど自分の心に伝わってくるものはない。
こういう時ほど愛しくてたまらない。


本当は抱きしめたいのかもしれない。
正面からお互いをじっくり見据えて、心からの抱擁を求めているのだ。
きっときつく抱きしめ返してくれるだろう、熱くてたまらないほどに。


「ねぇガイさ、今日の夕飯は熱々の餃子でいっぱいやりたいな、なんて思ってるでしょ」

「なっ、なぜわかったんだカカシ!さては写輪眼を使ったな!?」

日が落ちて、辺りが薄ぼんやりと黒い霧に包まれたようになれば、遊戯は終了を告げる。
ガイが何を考えているかなんてすっかりお見通しで先手を打つカカシに、そんなカカシにぎゃふんと言わせたいガイに戻る。

表と裏ではなく裏と裏、反射せずに反映する透明な鏡。

静かに隅から隅まで映しあう二人は、ただ仲良し。

 

2004/4/16

 

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