運命

 

 

少し飲みすぎたかもしれない。

ナミはサンジが宴会の締めに出したかき氷を持ってデッキに出た。
外は真っ暗だが、ナミは知り尽くした船の上をすいすい歩いてメリーに背中を預けた。
船の後ろを流れていく波、月の光を浴びて光っている。
何故か笑いが洩れた。

「ふふ、飲みすぎたかしら」

そのままキッチンから洩れる会話を聞きながら、海を見ながら、半分くらい食べたところでふと目を落とすと、氷の中に黒い物体が浮いていた。


なんだろう、これは。


暗いのでいくら凝視してもなんだかさっぱりわからない。

ひょっとしてサンジ君がさっき言っていた当たり玉だろうか。
『珍しい香味料を混ぜ合わせて作った当たり玉を一つだけ入れておいた』と言っていた。
それとも、虫か何かだろうか。
少し気味が悪くなってスプーンでつついてみるが、反応はない。

捨ててしまおうか、どうしようか。
食べようか、食べまいか、どうしようか。

ナミは少し迷ってから、食べることに決めた。

ぱくり


「おいしーい」


当たり玉だったようだ。
小さな黒い塊が口の中で静かに溶けて広がり、甘い香りが鼻を伝ってくる。


あぁ、なんて自分はラッキーなんだろう。


幸せだわ。


ナミは目を閉じてその余韻を楽しんだ。
目を開けると、ルフィが不思議そうに顔を覗き込んでいた。

「なーにしてんだナミ?」

心なしか残念そうなのはナミがもう食べ終わっているのを見たからだろう。
ナミはふわりと微笑んだ。

「あんた、当たり玉ね」

「え?玉なのかオレ?」

「あ・た・り、ってこと。そんで、私は幸せなのよ」


アルコールの匂いに、自然と漏れる微笑み。

涼しい夜風に、仲間達の声。

少しぐらつく足元に、目の前に最愛の人。


ルフィは首を捻って少し考えたが、結局にししと笑った。

「じゃあナミが当たりだから当たりが当たったんだな」

「そうよ、幸せなのよ」

「よしもっと食べよう!」

ルフィはナミを抱き上げると、一目散にキッチンに駆けていった。
ナミはルフィの腕の中で素晴らしい風を感じながら、笑うこと以外の全てを忘れた。

 

2004/6/1

 

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