貴方がいなければ

 

 

人を疑うことを覚えた私は、誰も彼もを疑うようになった。

笑顔、その裏で人が何を考えているのかなんてわからない。
私には思いもつかないような悪どいことを考える輩もいた。
何度か死にそうになって、でもあらかじめ疑っていたから大したことのない別れ達。


さよなら、さよなら!もう二度と会うこともないでしょう!


キラキラ眩く光る金塊に舞い散る紙幣を抱えて私はひた走る。

疑って疑って裏切られて。
自分の心すら疑いぬいて。
でもこの世界じゃあ当たり前のこと。
裏切り略奪殺しは当たり前のこと。

なのに。


「そいつはウチの航海士だ」


あんたはいつだって笑顔ね、その裏で何を考えてるの?
一体何を考えてるの?

守るべき約束?
そうだ、約束は果たされなきゃならない。

隣にいる緑頭も、二人とも馬鹿なのかしら!
馬鹿なんだ、きっと馬鹿なんだ。

疑うにしても、疑いようのない事実。
海賊王になる。
それ以外にこいつが考えてることなんてない。
でもそんなはずはない、絶対に裏があるはずなのよ!!



「オレ達、もう仲間だろ?」



その時、わかった。

あぁ、こいつには裏なんてないんだ。
表もないわ。

だって全部でルフィだもの。


すとんと心に落ちて抜けていった納得。
心がそこだけ空になってしまったせいか、無性に泣きたくなった。

泣くな!笑え!

なんて自分は汚いんだろう、こんなに嘘がつけない人間を疑うなんて。
汚くて小さくてどうしようもない私。

これ以上こいつらといたら、私が私ではいられなくなってしまう。


だから、さよなら。
また会えたらいいね。
さようなら!ありがとう!



一方的なさよならは、もちろん破き捨てられて。
どんなに言っても私の前から去ることだけはしなかった貴方に、どれだけ感謝したでしょう。
心からの気持ちを捧げます。

海の祝福を贈りましょう。

風と共に喜びの歌を歌いましょう。

その全てで貴方を支えましょう。




潮を含んだ風を受けカラカラと回る風車、熟れて甘酸っぱい香りを放つ蜜柑、 愛する家族達のいる美しい故郷、かけがえのない旅路、そこで出会った仲間達。

もうこれ以上大切なものなんて思い浮かばないから。



「私、もう何もいらない!!!」

 

 

04/12/12

 

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