かみのゆみはり
ナミは見張り台の上で静かにラム酒を飲んでいた。 きぃ 波音にまぎれて木造のドアの開く音がした。 下に目をやれば、少しふらつきながらもまっすぐに台所を目指すルフィが目に入った。 上に目をやれば、真っ黒い空に白く無数の星が輝いている。 「ずいぶん頼りない月ねぇ」
どかどか 「このクソゴムいー加減にしやがれ!!」
ナミは飲みかけのグラスを床に置くと、キッチンへと降りていった。
「そう言ってから何度目だこのアホ!!」 キッチンのドアを開けると、特大ねずみ取りにかかっているルフィを容赦なく足蹴にしているサンジが目に入った。 「サンジ君、もうそれぐらいでいーわよ」 サンジはさっきまでの険しい顔をこれでもかというほど優しい顔に変えてナミを振り返った。 「ナミさんがそう言うなら・・・。てめぇナミさんに死ぬほど感謝しろよ!!」 「仕掛けは私が外すからサンジ君はもう寝て。明日はちょっと忙しくなりそう」 サンジはルフィの頭に乗せたままになっていた足でもう一度ルフィを蹴った。 「ナミさんおやすみ」 そしてにっこりと微笑んでから、静かにキッチンのドアを閉めた。
仕掛けにはまって動けないルフィを見下ろす。 「ナミ〜これ外してくれ〜」 ルフィはうつぶせの状態でなんとか動こうとしているが、体全体を押さえつけられているためどうにかなりそうにもない。 「ねぇルフィ」 ナミはしゃがみこむと、麦わら帽子のないルフィの頭を優しくなでた。 「愛してる」 「何を?」 ルフィは顔をあげようとして中途半端な位置に首を持ち上げた。 「あんたをよ」 相変わらずナミはルフィの頭をなでつづけている。
「愛してるのよ」 ナミは独り言のように声を出した。 「ナミ!早くこれ外してくれよ!そしたら肉わけてやるからさ〜!」 ナミは静かに微笑んだ。 暗く暖かい場所で、ルフィはナミの心臓の音を聞いた。 波の音と鼓動以外、何も聞こえない。
「破裂しそうだ」
「もうしてるわ」 ナミはすっと立ち上がると仕掛けを解いた。 「全部食べたら殺すわよ」 新しいグラスになみなみとラム酒を注ぐと、ナミはキッチンのドアを開けた。 「なんだよナミ、食べないのか?あ、いや食べろと言ってるわけじゃねぇぞ!」 ルフィは口をもぐつかせながらナミをふり返る。 「いらないわ」 後ろをふり返らずに、ナミは静かにドアを閉めた。
いまだ細く三日月とも呼べない月を見上げる。 「満月までは遠いわね」 ナミはグラスに口をつけた。 「満ち足りるまであと何日かしら」 グラスの端を噛んだまま呟く。 グラスを一気に傾けた。
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