初めての君との恋

 

 

ルフィと最初にキスをしたのはいつだっただろうか。

ナミは海図を描きながら集中力の切れてきた頭でぼんやりと思った。
今と同じように部屋で海図を描いていたら、いつものようにルフィが入ってきて机を覗き込んだ。 邪魔だからどいて、とかなんとか言いながら横を振り向いたら思わぬほど近くにルフィの顔があった。 驚いて、ルフィの透き通った瞳につい目が釘付けになって、ゆっくりとその瞳が近づいくるのを見ていた。


ちゅぅ


軽い触れるだけのキス、キスとも言えない唇の押し付け。

「・・ナミはすげーなぁ、こんな風に海が見えてんのか」

スローモーションでルフィの瞳が遠ざかる様を思い出す。
ナミが呆然としている間に、ルフィは視線を海図に戻してナミの描いたばかりの線を指でなぞっていた。 先ほどのキスがあまりに自然な行為に思えて、ナミはそれに関して何も言うことが思い当たらなかった。

「まだ乾いてないから触んないで」

とりあえずそこだけは注意をした。

 

 

それ以来ナミとルフィは何度となくキスをしている。 どれも触れるだけの優しいキス。とても自然に、目が合えば触れ合う唇。 動物同士がする信頼の証のような口付け。

ナミはそれだけで温かくて、満ち足りた気持ちになる。
こんな小さなことで私を幸せにするなんて。

たまらない、とナミは自分の体を抱きしめる。

ルフィの唇を感じる度に、ナミの気持ちは音を立てて成長した。

もっと、もっと、もっと。

太陽の下で無邪気に笑うルフィ。
また触れるだけのキス?信頼の証のキス?
いっそのこと動物のように、獣のように。
もう夜はすぐそこ。
ねぇ、早く気付いて。

 

 

「ナミにキスする度に、なんか、喉元まで出かかってんだけどなぁ」

蜜柑の手入れをしていたナミにそっとキスをしてから、ルフィがぽつりと言った。
ナミを見つめたまま頬を撫でる。 夕飯の前の静かな時間、夕方の終わりと夜の始まりの真ん中。

「なんか言いたいことがあるんだけど、なんでか言葉にならねぇ」

ルフィは不思議そうに首を捻った。

「無理しなくていいわよ」

「いや、言いたいんだオレは!それはわかる!・・・んだけど、出てこねぇ」

「キスすると言いたくなるの?」

「いや・・・あっ!わかったぞナミ!キスと同時になんか言いたくなるんだ!だから言えないんだ!!」

「確かにキスしながら喋るのは難しいわね」

ルフィは1つ謎が解けてすっきりしたのか、すっかりその答えで納得しかかっていた。 にししと笑うルフィに、ナミもにこりと微笑んだ。

「でも私は出来るわよ」

ナミはルフィの両肩に手を置いて、ゆっくりとキスをした。 そして唇を触れ合わせたまま囁く。


「好きよ」


「ぉ・・・」

目を見開いて言葉を発しようとしたルフィに、より深いキスをする。
ルフィもそれに応えるようにぐっとナミを抱きしめた。


唇を離して、ルフィは言った。

「オレ、キスしたいなぁって、好きだなぁって」

腕の力を少し緩めて、一旦閉じた瞳を開く。


「それが言いたかったんだ・・・」


「やっと気付いたの?」

ふふ、とナミはおかしそうに微笑んだ。

「だってオレ、こんな気持ちになったの初めてだ」

ルフィは眉を寄せてナミを見つめた。 悩ましい顔はいつもより男らしく見える。

「だってしょうがないじゃない、私の方が海に出るのが早かったんだから」

ルフィは不満そうに唇を尖らせた。
ナミはそんなルフィの表情を見て逆に嬉しそうに笑って言った。

「でも、キスした回数じゃルフィが一番よ、ダントツで」

「なら、・・・まぁ、いっか」

まだ不満げなルフィに音を立ててキスをする。


「これからもずーっとルフィが一番よ、きっと」


ルフィが今度こそ嬉しそうに、少し頬を染めてにかっと笑った。

 

06/7/11

 

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