はちみつ泥棒
ゾロは、甲板の隅の方でしゃがんでモゾモゾ動いているルフィを見つけた。 どうやら何かを抱え込んで、それに顔を突っ込んでいるようだ。 また盗み食いしてんのかアイツは、と思いながらも声をかけた。
「ルフィ、お前そんなとこで何してんだ?」 がばっと顔を上げたルフィから、少し距離が離れているにも関わらず甘い匂いが漂ってきた。
「お、おれはハチミツ食ったりしてねーぞ!!!!」
「・・・・・・口の横に何かついてるぞ」 「はっ!!ホントだ!甘い!」 ルフィが抱えていたのは、どうやらハチミツの入った壷だったらしい。あぐらをかいた足の間にがっちりと挟んでいる。 どこかの悟りを開いた黄色い熊宜しく、夢中になってハチミツに顔を突っ込んでいたというわけだ。 自分の口の周りについている分まで、指ですくい取って食べるルフィを見て、ゾロは息を吐いた。 しかし、漂ってくる甘い匂いには、確かに食欲をそそられる。 「それ、そんなにうまいのか?」 「うまいぞ!サンジがずっと隠してたの見つけたんだ」 「あー?あのクソコック甘党なのかよ」 これまで見つからなかった場所に、サンジが隠していたというのだから、そうとうの珍品であるに違いない。 そんなに甘味が好きではないゾロが、興味をそそられた理由もわかるというものだ。 そうしたゾロの様子を見て、ルフィは閃いた!とばかりに顔を輝かせて言った。 「そうだ!これ少しやるから、このことサンジに言うなよ!?」
「・・・・・・」 「でも、ちょっとだけだからな!!」 「お前のじゃないだろが・・・」 ルフィは、子供じみた方法で自分を買収しようとしている。 それはともかく、コック秘蔵のハチミツがどんな味なのか、気になる所だ。だが、バレると後が面倒なことになりそうでもある。 さて、どうしようか。ゾロは考えた。
「ちょっとだぞ?はい」 ルフィは、ゾロが絶対話に乗って来ると、自信満々に壷を両手で差し出している。 いくら何でも人をバカにしすぎなんじゃないか、コイツは。
「おれはそんなにいらねーよ」 言いながら、壷を落さないようにルフィの腕を引き寄せる。 そして、口の端に残っていたハチミツを舐め取った。 ついでに唇についている分も、ラインに沿ってゆっくり味わっていく。 舌に触れる感触が気持ちよくて、味がしなくなってからもしばらくそうしていた。
「甘ぇな・・・これで十分だ。ごちそーさん」 顔を離すと、少し眉間にしわを寄せてルフィの目を覗き込んだ。
ルフィは納得いかない、といった表情でゾロを見上げている。 「お前ずりーぞ!これじゃおれだけが悪いみたいになるじゃんかっ!」 「元々てめぇが悪いんだろ?観念しろ」 肩越しにニヤリと笑って船尾に歩いていくゾロに、「卑怯者ー!」と叫ぶルフィの声が聞こえてきた。 その後、御用となったはちみつ泥棒は、コックの華麗な足さばきによってKOされたとか。
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