キューピーはきっと来る
「っあ゛〜!・・・・ん・・・・まだ始まってねェのか?」 木の幹に寄りかかって寝ていた青年は、目を覚まして身体を伸ばした。 寝ぼけ顔で周りを見渡すが、周囲には深い森が広がるばかり。人の気配はなく、静かな森の中に小鳥のさえずりが響いている。 そこへ、小さな獣の足音と叫び声がまじって聞こえてきた。音のする方を見る。 「どうしよう!二人ともまだ来ないんだ!色んな船がどんどん来てるぞ!海軍も来てるぞ!」 タヌキがしゃべった。 「知ってる人しか呼んでないはずなのに・・・・どどどどうしよう!」 べそべそと半泣きで訴えているが、青年は眠気が戻ってきた顔で言った。 「どうせ、あの女の支度に時間がかかってんだろ。もうすぐ来るんじゃねーの」 そして、また目を閉じてしまう。 「てめェは寝るなー!」 青年の頭を、黒いローファーが蹴り上げた。 「おい!まだあいつら来ねェのか。もう料理出来上がっちまったぜ」 金髪の青年は、灰を落とすのも忘れて、せわしげにタバコを吹かしている。明らかにイラついた様子でアゴに手をやって、その場をぐるぐると周っている。 所在無く、タヌキも後について周り始めた。 緑頭の青年は、蹴られたことにも気づかず熟睡している。 「さっき探しに行ったみたいよ。飾りつけは終わったから、て言ってたわ」 足音もなく、女は現れた。 女が突然現れたことに驚いている者はいない。木漏れ日を浴びた黒髪が、そよ風になびいて光をはじいた。 森は、相変わらず静まりかえっている。 その中で、地響きのような、何かを引きずるような音が聞こえた気がした。 「・・・・お、お前ら・・・・今すぐ船に乗れ・・・・」 長っ鼻の青年が、傷ついた身体を引きずってよろよろと近づいている。乱闘騒ぎに巻き込まれて、もみくちゃにされたような有様だ。 「ど、ど、ど、どーしたんだ!?スゴイ怪我だぞ!医者ー!ああああああ!」 「・・・・お前だろ」 何度も繰り返されてきた、ボケと突っ込みが鮮やかに決まる。 ぼろぼろの青年は介抱されながら、事情を説明した。
「あいつらを呼びに行ったらよ、原因はわかんねーんだけどよ、大喧嘩になってたんだよ」 「見たことねーぐらいに険悪な雰囲気でよー・・・・オレは偉大なる海の男の名にかけて間に入ったんだが・・・・ヒドイ目に遭った」 「二人して、『もう結婚はやめだ!』とか言い出しやがったんだよ!!」 「そんで荷を積み出して、『冒険だー!』とか『財宝よー!』とか盛り上がってて」 「とにかくお前ら船に乗れ!!」
その場にいた者は呆気に取られたり、頭を抱えたり、クスクス笑ったりしている。 先ほどから寝ているとばかり思っていた青年が、突然立ち上がって歩き出した。 「お、おい!お前どこ行くんだよ!?」 長っ鼻の青年が慌てて呼び止めた。緑頭の青年はふり返ると、当然といった顔で答えた。 「船。考えたって無駄だ」 誰もがうなづいて、青年の後に続く。 「確かにそうね」 「しょうがねー奴らだ」 「え?え?じゃあオレも!」 「それではオレ様の誘導の元、船に戻ーる!お先にどうぞ!」
「ああ、忘れてた」 金髪の青年は、余った招待状の裏に走り書きをして、テーブルの上に置いた。 鼻歌まじりに後を追いかける。 「これで皆、満足すんだろ」
『グランドラインに名高い、名コック自慢料理の数々をお楽しみください』
03/7/1
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