優しい人

 

 

「なぁ、なんとなく思ったんだけどよ」


ウソップは、唐突に新しい兵器を開発している手を止めて、ぽつりと言った。

キッチンには紅茶を飲みながら読書にいそしむロビンと、修行の一環だと言う昼寝をしているゾロしかいない。
必然的にロビンがウソップの話に乗る。

「何かしら?」

机を挟んで正面にいるウソップを見つめると、ウソップは体をこちらに向けて座りなおした。


「ルフィは船長だろ、俺たちの船の行く先を決める、いなくちゃならねぇ存在だ」

ウソップはロビンに向かってびしりと人差し指を突き出した。
ロビンはゆるやかに微笑みながらウソップを見つめている。


「そんでナミは航海士だ。あいつがいなくちゃ俺たちはグランドラインの上で即あの世行き」

ウソップは中指も立てて、2を表した。


「サンジは料理人で、朝昼晩365日と、毎日必要な人間だろ」

更に薬指もびしりと立てる。

ロビンはいつのまにか本を閉じて、ウソップの話を興味深そうに聞いていた。
ゾロは相変わらず机の横の壁にもたれて眠っている。


「チョッパーはまさに死活線だ。なにしろ医者だからな」

そして4本目の薬指をびしっと立てると、急に真剣な表情になった。

 

「俺たちって、必要なくねぇか?」

 

ロビンは一瞬きょとんとした表情になったが、ちらりと横目で、まじめに修行中なはずの剣士を見てからにっこりと笑って言った。

「それはあなたと、私と、剣士さんのこと?」

「そうだ」

ウソップは真剣な顔でうなづいた。
あぐらをかいて腕を組み、いつもと違ったオーラを醸しだしている。

「どうしてそう思うのかしら」


「だってこの船は、さっき言った4人がいりゃあなんとかやっていけるだろ!?」

ウソップはくわっと目を見開くと、なんだかおかしなテンションで話し出した。


「確かに戦闘の時に人数は多い方が有利かもしんねぇ。けどルフィが一人いりゃ、たいがいの敵はクズだ!それにサンジもいる!」


「・・・それもそうね」

ウソップの話を微笑みながら聞いていたロビンは、急に沈んだ様子になった。
そしてふっと目を伏せると、小さなため息を吐きながら閉じた本の上に手を置いた。


「だがよ、やっぱり人数は多い方がいい!!」

ウソップはロビンのため息の音を聞くと、慌てたように腕を振り上げ早口で喋りだした。


「なにしろルフィとサンジは猪突猛進、前しか見えてねぇ。だからこそ後方支援の俺やロビンが必要になるわけだ!特にロビンの能力は一度にたくさん使えてお得だし、サンジもお前がいりゃ大人しくなるからな!それに考古学者なだけあって知識も豊富!まさにバカばっかりのこの船には必要な人材ってわけだ!それにえーっと、暗殺も得意だしな!!」


最後のほうはやや冷や汗をかきながらも、ウソップはなんとか締めくくった。

「お前もそう思うだろ?」

額の汗を拭いつつ、ロビンに笑いかける。


「そうね」

ロビンはゆっくりと顔を上げると、にっこりと笑った。

「それに狙撃手さんがいないと、この船の大砲は今後日の目を見ることはないわね」

「だよな!」

二人はにっこりと微笑みあった。
ウソップは笑うロビンを見て、安心したように深く微笑んだ。

 

しかし、そんなウソップの視線がすっと横に逸れた。


「だとすると、・・・こいつはほんとにいらねぇんだなぁ・・」

その視線を追ったロビンも、ウソップと同じようにしみじみと呟く。

「そうね。・・・なんだか可哀想」

「あぁ・・本人には言わないでおこうな」

二人の目線の先には、先程よりも明らかに眉間にしわを寄せて眠っているゾロがいた。


「三刀流なくせに一刀流と二刀流の方が明らかに技数多いし」

「剣を使わずに敵を倒したこともあるわね」

「それにこの腹巻もな、意味わかんねぇよな」

「私はどうやったらこんなきれいな緑色の髪になるのかが知りたいわ。やはり先祖代々この髪色なのかしら・・・」

「ぶぷーー!じいちゃんばぁちゃんみんなこの色!?ぶはっ!やべぇ想像しちまった!!見てーーー!!」

ウソップが耐え切れずに床を転がった時、ついにゾロの額の青筋が一本キレた。


「てめぇらいい加減しろ!!!」


「なんだよ起きてたのかよ!」

ウソップは急に立ち上がったゾロと、その声に驚いて跳ね起きた。

「嫌だわ剣士さん、盗み聞きしてたの?」

ロビンはウソップとは対照的に、落ち着いた様子でにっこり笑いながらゾロを見た。

 

ブチブチッ

 

ゾロの青筋が更に切れていった。

「本人目の前にして言いたい放題言ってる方が悪いだろーが!!」

「なんだよ、図星指されて怒ってんのかよ。やーいやーい緑頭の末裔がここで迷子になってますよ〜!!」

ウソップは自分の言ったことに耐えられず、また腹を抱えて笑い出した。
ロビンもたまらず手で口を押さえる。

 

 

 

ぼっちゃーーーんっ

 


甲板で各々好き勝手していたクルー達は、素晴らしい放物線を描いて飛んでいったウソップに10.0の旗を掲げた。

 

 

 

「どうもありがとう、って狙撃手さんに伝えておいてくれるかしら」

自分で投げておきながらいかにも面倒くさそうに海に飛び込もうとしたゾロに、ロビンはそっと囁いた。

「礼くらい自分で言え。・・その方があいつも喜ぶだろ」

ゾロは顔をしかめてそう言うと、遠くで大型のサメに襲われひときわ甲高い悲鳴を上げているウソップを助けにいった。

 

 

「・・・・・でも」

一人残されたロビンは、首をかしげて困ったように微笑んだ。


「狙撃手さん、もう溶けはじめてるんじゃないかしら」

 

03/6/26

 

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