必要なもの2

 

 

くいなとゾロは立ち上がっていた。
今は、ゾロの身長はくいなの倍ほどもある。
筋肉は逞しく発達し、身体の内には迸るエネルギーを秘めている。

三人で、崖の端から夕日を見ていた。
世界はオレンジ一色に染められあげている。

「おーい島が見えたぞーー!!」

ウソップが嬉しそうに叫んだ。

「新しい島か!!」

ルフィも負けずに嬉しそうに叫び返した。

「よぉーし!んじゃゴムゴムでひとッ飛びだ!!」

目の前には赤い夕日と海が見えるだけで、島の影はどこにも見当たらない。

 

「そりゃ      だろ」  
     無理            
「まだ       よ」   

          

くいなとゾロの声がみごとに重なる。
ルフィは止められたのに嬉しそうに二人を見ていた。
腕はどんどん遠くへと伸びていって、夕日に吸い込まれてしまいそうだ。
遠く、より遠くへ。

もう片方の手で、ゾロの手を強く握っている。

          

「やろうと思ってできないことはない!」

ルフィはきっぱりと言い放った。
いつも通りの爽快な笑顔で。

「今行く!!」

 

ルフィはにっかり笑った。

「お、起きたか〜」

より鮮やかな赤と、船の真上を飛ぶカモメが目に入った。

「・・・・・ルフィ」

右手はしっかりと握られている。

「なんだ?」     

ルフィは、あぐらをかいて壁に寄りかかっているゾロを、覗き込むようにして見つめた。
握っている手を強く握り返して、ルフィの身体ごとその手を胸に引き寄せた。
しっかりと包み込む。
ルフィは暖かいところにいる猫のように、大人しくゾロの胸に顔をうずめている。 

「俺なんか言ってたか?」

「『うーん』とか『どぅおぉい!』とか言ってたなぁ」

くぐもって返ってきた答えに、ゾロは息を吐いた。

「あと『くいな』」

心臓が大きく跳ねる。
ルフィが顔を上げた。

「誰だ?『くいな』って」

「・・・・昔の友達だよ」

「ゾロの友達か!んじゃおれの友達でもあるな!」

ルフィはにししっと笑うとゾロのうなじに顔をうずめた。

 

「おい」
「んあ?」          

「お前、今日ずっとここに居たのか?」   

ゾロはルフィの頭を優しく撫でながら聞いた。

「居たぞ」
「・・・ウソップが島が見えたとか言ってなかったか?」
「もう着いてるぞ!」

ゾロはちらりとあたりに目をやった。
今しも太陽は水平線の彼方に消えようとしていた。
港には明かりが灯りはじめている。
先程からなんの気配もないのは、クルーが全員出払っているからなのだろう。

 

「見に行かねぇのか?」

「別に島は逃げねぇし」

ルフィが口を開く度に、暖かい風がゾロのうなじをくすぐる。

「んじゃ俺は逃げんのかよ?」  

「何言ってんだ逃がすか!」 

ルフィは素早く顔を上げるとゾロを全身で押さえ込んだ。

ごっつん

ルフィの勢いに壁から少し頭を浮かせたゾロは、その勢いのまま壁に逆戻りした。

「てっめぇ・・・」

「いいか!」  

ルフィの顔が目前に迫る。

「お前はおれの仲間だからな!絶対に離さねぇぞ!!」

ゾロは焦点の合わない目でルフィを見つめ返すと、怒ったようにへの字になってしまった唇に口付けた。


お互いの唇を貪りあう。
味わう時間も惜しいように、歯列を割り入り舌を絡め、唾液を送りあった。

 

ゾロは大きく空気を吸い込んだ。
汗と、埃と、太陽の匂いがした。

 

 

 

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