nirvana
「お前、ほんっとーにスパイなのか?」
「しつこいな〜おめぇ」 昼でも薄暗いジャングルの中で、日も差さないのに帽子をかぶっている少年は呆れ顔になった。 「さては長っ鼻なうえバカだな?」 大声を出した少年は慌てて手で口を覆うと、きょろきょろと辺りを見ながら声をひそめた。 「大声出させんなよ場所が知れちまうだろーが!」 「長っ鼻がしつこいせいだろ〜?」 「だから長っ鼻はよせ!ルフィとかいったなてめぇ、捕まってんだから大人しくしろ!」 ルフィは眉をしかめて少年を見上げた。
「お前、俺が捕まった理由知ってるか?」
「知らねぇんだろ」 ルフィは少しうつむいてから静かに言った。
少年は大げさに肩をすくめると、銃声の音源、ジャングルの更に奥地をにらみつけた。 「でなきゃ、ここでお前の見張りなんかしてねぇよ」 苦い呟きは銃声に混じって消えた。
会話がなくなってからどれほどの時間が過ぎたのか。 銃声は遠ざかっているようで、鳥やそのほかの動物の鳴き声が聞こえてきている。 体を木にぴったりと寄り添わせ、銃口は横であぐらをかいているルフィを狙う。 その時20メートルほど離れた木の根から何かが飛び出した。
どさり
「・・・獣か」 銃弾は正確に獣の眉間を打ち抜いていた。
目に入った汗を拭う。 そこには異様なほどジャングルに溶け込んでいる幼い少年がいた。 横に居るはずなのに、気配を驚くほど感じさせない。
――狂ってるか、慣れてるかのどっちかだ
「おい」 「なっ、何だ・・・!?」 少年の声は震えていた。 ルフィは少年の目を見つめながら、確認を取るようにゆっくりと発言した。 「俺は今から逃げるけど、お前はどうする?」 「・・・はぃ?」 少年は危うく銃を落としかけた。 「何言ってんだお前?どーやって逃げんだよこの状況で」 「そりゃあもちろん、走って」 ルフィは自信たっぷりとでもいうように、笑って言った。 「お前バカか!?そんなことして俺が黙ってるとでも思ってんのか!!」 少年は顔を紅潮させて叫んだ。 そしてゆっくりと、ルフィの正面に回った。
少年は突然のことに体をびくりと震わせ、わずかに後ろにさがった。
背を強かに打ちつけたため、一瞬の呼吸困難に陥る。 「・・・・っ・・・う」 「大丈夫か?」 金属の触れ合う音が近づいてきた。 「あぁ・・・・」 少年は何度もせわしない呼吸を繰り返した後、返事ともため息とも取れる声を出した。
がちゃり 指の隙間から真上を伺う。 「最後にほんとの名前でも教えてくれよ」 少年は顔から手を下ろすと目を瞑って言った。 「ルフィだよ」 少年は次の瞬間に備えてきつくまぶたを閉じた。
「お前は?」
「へっ?」 少年は思わず目を開いた。 手錠によって仕方なく体の前にまとめられた、その手で持っているだけに見えた。 「名前なんてーんだ?」 「・・・ウソップだ」 「そうか、ウソップ!肉は好きか?」 「・・・・・・・好きだ」 「料理は得意か?」 「・・・まぁある程度なら」 「合格!」 ウソップは嬉しさが顔いっぱいに表されたルフィを、心臓を激しく稼動させながら見つめた。 「おいウソップ立て。ここにいたって殺されるだけだぞ」 ウソップがそろそろと立ち上がっている間に、ルフィは弾を抜いた銃を遠くへ放り投げた。 「行くぞ」 そして後ろを振り向くこともせずに、銃声から遠ざかる方向へ走り出した。
ウソップは慌てて後を追う。 その表情は今までとうって変わって輝いていた。 こいつはよっぽど凄腕のスパイに違いない。 笑いが洩れた。
「これからどーすんだよ!俺手錠の鍵持ってねーぞ?!」
「手錠なんてどーにでもなるだろ!」 確かに、と少年は思った。
こいつを縛るには殺しでもしないと無理だ。
お互いに前を向いてまっすぐに走り続ける。 「ところでルフィ、こんなに足速いのになんで捕まったんだ?」 「いや、うまそうな肉があったから食おうとしたらよ、下に穴があって落ちちまった」 「・・・お前、ほんっとーにスパイなのか?」 「いや、スパイじゃない。スカウトしに来たんだ、長っ鼻な凄腕って噂のスナイパーをさ」
ルフィはウソップをふり返ると、いたずらが見つかった子供のような顔で笑った。 「お前だ!」
2003年ルフィ誕生日企画作品
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