立浪草

 

 

真っ赤に燃える炎の向こうに、ルフィが立っていた。
その下にはたくさんの屍が横たわっている。

数え切れないほどの敵を倒し、その屍の上に君臨する。

下敷きとなって消えていく命が多ければ多いほど、海賊としての輝きが増していく。


力の証明。


ナミは強く息を吸い込んだ。

 


生きている限り


私の命を捧げます

 

 

 

 

「おいナミ、これやる!」

ルフィがばたばたと音を立てて女部屋に飛び込んできた。

ナミは椅子の上でわざとらしいため息つくと、書き途中だったペンを置いて首だけでルフィをふり返った。


ルフィの手には、褪せた青紫色をした花が一輪握られている。
同じ方向を向いた、中央の少しくぼんだ小さな花がピラミッド状にたくさん付いている。
下の花から咲くのか一番上の花はまだつぼみだった。


あまり見ない花だったが、ナミはその花のことをよく知っていた。

「どうしたの、これ?」

「あっちに咲いてた、変わった形だろ」

ナミの横に立ったルフィは、宝物が見つかった時のように嬉しそうな顔をしている。
そしてその花をそっとナミの髪にさしいれた。


「あとお前に似合いそうだと思って」


ルフィは読みが当たったのか、にししと笑うと机の上に腰を下ろした。

実際その花は、橙色のナミの髪の上によく似合っていた。
ほのかな香りがナミの鼻をくすぐる。

「ありがとう。この花・・・好きなの」

ナミは俯いてから、にっこりと笑ってルフィを見上げた。

「この花のこと知ってんのか?」

興味津々のルフィの顔が近づいてきた。
ナミは口だけで微笑むと、ルフィの膝に手を置いた。


「この花はね、『タツナミソウ』っていうのよ」


ルフィはナミの頬で揺れる花を見つめながらうなづいた。

「野原一面に咲くこの花が風を受けると、まるで海の波のように見えるところから付けられたそうよ」

「へぇ!すげーな!見てぇな〜!」

遠くを見るような目で、ナミは前にある壁を見つめている。
ナミがなんとも言わないので、ルフィは不満そうに口を尖らせた。


「ナミは見たことあんのか?」

「・・・・あるわ」

 

 


ざわりと木々を揺らす風の音が聞こえた気がして、ナミは目を閉じた。

辺り一面のタツナミソウに囲まれて、ナミは一人立っている。


膝の辺りをくすぐるように揺れる花の感触に、自然と目が細まる。


薄い紫が集まって作り出した濃紺の色合いの中で、ナミはただ見とれることしかできなかった。

 

 

「海の上に立ってる気分だった」



ナミは静かに目を開いた。

「俺も行ってみてぇなぁ」

ルフィはうらやましそうな顔でナミを見ていたが、すっと手をナミの頬に持っていくと、いつもの人を惹きつける笑顔になった。

「でもここに『ナミ』がいるからいーや」

ナミは、ルフィに撫でられている部分に神経が集中していくのを感じながら、ルフィの目を見つめた。


「海の波みたく、俺たちを導いてくれるナミは俺のもんだからな。花の波よりこっちのがいい」


ルフィは嬉しそうに笑いかえすと、ナミの頭を抱き寄せた。
ルフィの腹に顔をぴったりとくっつけたまま、ナミもルフィの腰に腕をまわす。

 

 

 

 

『私の命を捧げます』

タツナミソウの花言葉を知った時、ナミのこの花への思いはより強いものになった。

 

 

 

「ルフィ」

「ん?」

優しく頭を撫ぜていた手が止まった。

「海賊王になったら、一緒に見に行こうね。約束よ」

「おう、見に行くぞ!」

こうしてルフィに約束をさせる自分に少し苦笑しながらも、ナミは腕の力を強めた。


まぶたの裏に映る、波のように揺れる花達がまるで自分の心のように見える。

けれど、その上をルフィが走っていくのなら構わない。

踏みつけられて、ぐしゃぐしゃに潰れた花も、いつか今よりも強くなってまた新たな花を咲かすだろう。

 

「ナミ、誕生日おめでとう」

 

ルフィの暖かい唇をつむじに感じながら、ナミは体の力を抜いた。

 

03/6/29

 

スジャータのコーヒークリームのフタ
365日の花の写真と花言葉が載ってるの見たことありますか?
7月3日の花は「立浪草(たつなみそう)」、花言葉は「私の命を捧げます」
見た瞬間、ルナミーっっ!?て思いましたよ!!
立浪草をテーマに、クロエと花田が微妙にリンクした作品をつくりました
→クロエの作品はこちら

ナミ誕生日企画「世界に一つだけの花」へ寄稿させていただきました

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