ハートのエース

 

 

今日も、ウソップの殺し文句は絶好調だ。

「本当はヒミツの話なんだけどよ・・・」

「うお〜!スッゲ〜な〜!」

そして、チョッパーの食いつきも絶好調だ。

 

「スッゲ〜のかァ!?」

おっと、今回はルフィも食いついてきたようだ。

「・・・・・・ルフィ。ヒミツの話なんだから、あっち行ってなさい」

ウソップは、ルフィを蝿や蚊のように、手で追い払った。

時折、鋭い突っ込みを入れてくる船長を恐れての行動だ。いまいち自信のないネタなのだろう。

ルフィは口を尖らせてふてくされている。

「ケチ!オレだって、ヒミツの話が聞きたい!」

「他の奴のヒミツでも聞いてろ、ホラ、な?」

口調は穏やかだが、ぐいぐいと背中を押されて、ルフィは甲板から締め出された。

 

ナミは、キッチンで海図を描いている。サンジが皿を洗う水音が心地良い。

フと顔をあげると、そこには湯気を立てている、紅茶とドーナツが置いてあった。

ずっとお皿を洗う音がしていたはずなのに。

集中しているナミの邪魔をしないように、足音を忍ばせて近づくサンジの姿が目に浮かんだ。

「サンジくん、ありがとう」

微笑むと、多少締まらない感じはあったが、優しい微笑みが返ってきた。

「ナミさ・・・・・・」

「ナミーっっ!!」

ルフィがキッチンに転がりこんできた。

「なァ!お前の・・・・・・」

「ルフィー!てめェ、オレとナミさんのスイートタイムを邪魔しやがって!!」

サンジはもちろんキレた。

ルフィは、そんなサンジを一向に気にしない様子で、ナミに詰め寄っている。

「お前のヒミツを教えてくれ!!」

 

「「は?」」

二人の声がハモった。

 

キッチンは、サンジとナミの気持ちを代弁するかのような無風状態。

新しいタバコに火を点け、サンジは仕切りなおした。

「言っちまったらヒミツじゃねーだろが。アホ」

それに応えるように振り向いて、ルフィは言った。

「お前のヒミツでもいーや」

「人の話聞いてたのか、コラ」

サンジは、ルフィを見下ろして威嚇した。スイートタイムを邪魔された怒りが復活したらしい。

が、すぐに無言で流し台に向かってしまった。背中からは「怒るだけエネルギーの無駄」オーラが漂っている。

 

「なァなァ。ヒミツ、教えてくれよ」

正面に座ったルフィは、ちゃっかりナミのドーナツと紅茶をほおばっている。

言ってしまったらヒミツがヒミツではなくなる、なんて理屈が通らないこの男。

私の秘密が知りたいだなんて。

我慢できなかったサンジに蹴られながらも、ドーナツを流し込むルフィを、ナミは半眼になって見た。

「あんた、そうやってみんなにヒミツを聞いてまわってるのね?」

「そう!すごいヒミツが知りたい!」

口の周りを砂糖でベタベタにした顔が、机越しに迫ってきた。ハンカチで拭いてやりながら、もったいつけて言う。

「例えば?どんなヒミツ?」

ルフィは、ちょっと考えるそぶりを見せた。

「とにかく、スゲーの」

考えた意味はなかったようだ。ナミは、ますます目を細めてルフィを見た。

「でも、私にヒミツなんてないもの」

「えー!!何にも!?」

いかにもガッカリした風のルフィを、ナミは細めた目で笑って見ている。

「そう。なーんにもっ」

ナミは歌うように言い放つと、仕上げにルフィの頬を思い切りこすって席を立った。

「だから、言いたくても言えないのよ。サンジくん、ごちそうさま」

甲板に向かうナミの背中に、サンジのヒミツを聞き出そうとするルフィの声が届いた。

 

ナミは、気持ちを落ち着かせようとして、船の進路を見た。

今の私は、周りから見て不自然なくらい、興奮して見えるかもしれない。

舳先には、どうやら誘因となったのだろう、ヒミツ談義に盛り上がるウソップとチョッパーがいる。

しかし、こうも会話が丸聞こえだと、ヒミツも何もあったものではなさそうなのだが。

とりあえず1発ウソップを殴ったら、少し気分が落ち着いた。

悪気がないなんてわかってるけど、腹が立つじゃない?

私の秘密が知りたいだなんて。

・・・・・・私の秘密が知りたい、ですって!?私、あんたに隠してることなんて何一つないのに!

 

倒れたウソップを盾にして震えながら様子を伺っていたチョッパーは、ナミの横顔に密かな悲しみの色を見た。

あ、まただ、と思う。ナミは時々こんな表情をすることがある。

ナミにあんな顔をさせるなんて、一体誰が何をしたというのだろう。ナミは何も言わないから、誰にも言えないヒミツのことなのかもしれない。

慰めてあげたいけど、男なら黙って隣に立ってるのがカッコイイんじゃないかな。ゾロみたいに。

こっそりとナミの横に立って、一緒に海を見てみる。海はナミの心とは正反対に静かに空を映していた。

チョッパーの気遣いに感謝するように、ナミが優しくおでこを撫でてくれた。

オレ、これで良かったんだな!思わず頬が緩んで笑いが漏れてしまう。

でも、ナミは相変わらず悲しそうな顔をしているから。

少しだけ、そのヒミツを知りたいような気がした。

 

03/6/29

 

BACK