おまえの肩

 

 

「おいナミ、肩のヒモずれ落ちてんぞ」


「あ〜ぁ、また?ありがとルフィ」

ナミは一旦筆を置くと、さも嫌そうにため息を吐きながらキャミソールの肩紐を直した。

「ホント面倒くさいのよね〜、でもキャミソールの方がTシャツより好きだから仕方ないか」

ナミはぶつぶつ言いながらまた地図に筆を走らせた。

「何がメンドくさいんだ?」

ルフィは今まで弄んでいた不思議な物体を投げ捨てると、ナミの椅子に無理矢理体をねじ込んで座った。

「ちょっと、あっちから椅子持ってきなさいよ」

「いぃ〜じゃーん」

ルフィは更に体を割り込んで、ついには半分スペースを確保した。

「んでなんできゃいそーりだとメンドくさいんだ?この服だろぉ?」

「キャミソールだっつの」

ナミは呆れて笑うと、自分の肩をそっと押さえた。


「だって私、撫で肩なんだもの」


ルフィは目をぱちくりさせている。

「・・普通よりもなだらかな肩のことよ。だから肩紐がすぐに落ちてきちゃう」

ナミは忌々しそうに言うと、押さえている自分の肩をじろりと睨みつけた。

「ふーん」

ルフィはわかったのかわかっていないのか、中途半端な返事をしながらナミの肩をじっと見ている。


「嫌なのかこの肩?」

「うーん、嫌っていうか。もう少し普通の肩だったら気にならないことが多いのよ」

「おれナミがこうやって直すところ好きだぞ」

ルフィはご丁寧に、一旦紐を肩から下ろしてナミの手を掴むと、ナミの手を器用に操ってまた肩の上へ戻した。

「それはありがと」

ナミはちょっと眉を下げながらにっこり笑った。

「じゃあもうどいてくれるかしら?続き書きたいんだけど」

ルフィはまだ何か考えているのか、ナミの手を握ったままじーっと肩を見続けている。

「ルフィってば、なぁに?じっと見ちゃって」

ナミは真横にいるルフィの顔をじっと見つめた。
その目線は真剣に自分の肩に注がれている。


この船長が真面目な顔をしている時はロクなことがない。

ルフィは急に顔を上げると、もう片方の手のひらでナミの肩を包んだ。


「なでると肩って減るのかな」


「は?」

「ナミがこうやって直すところ、おれと会う前は見たことねぇだろ、ってことはおれと会ってから肩が減ったとしか考えられねぇ」

ルフィはいやにきっぱりと言い切ると、少しだけ手に力を込めた。


ルフィと会う前にどうやってルフィが私を見るのよ、とか。
肩は撫でたくらいで減るもんじゃないでしょ、とか。
他にも色々言いたいことは思い浮かんだんだけど。

ナミは意地悪気に微笑んで、鼻がくっつくくらいにルフィに顔を近づけた。


「で、それがわかったところでどうするの?」


「え?何を」

「だから、これ以上私の肩が減ったら大変だとは思わないの?」

「あ」

ルフィはびっくりしたように目を見開いた。

「まさか何も考えてなかった、・・みたいね・・・」

ナミは眉間にしわを浮かべて睨みつけると、浮いた瞬間を逃さずにルフィの手を払った。

「あっきれた!ちょっとは私のことも考えてよね!」

やっぱり。
ルフィのことだから優しいセリフなんて期待してなかったけど。

ナミはぷいとルフィに背を向けた。

別にそんなに怒っているわけではない。
そうだったらナミはとっくに椅子から立ち上がってルフィを張り倒しているだろう。

ルフィの体温を感じながら、ナミはなるべく怒っているフリをした。


「なぁナミ」

ルフィの手がナミの両肩に乗る。

「おれナミの肩が好きなんだ。丸くてすべすべしてて、かっけぇ刺青がしてあって、こんないい肩なかなかねぇ」

ルフィは慈しむような柔らかな動きでナミの肩を撫でている。

「だから、触るなって言うんなら、もう触らねぇよ」

ナミはそっとルフィの手に自分の手を重ねた。


「なぁナミ、おれお前の肩が大好きなんだよ」


「バカね、あんたのもんなんだから好きなだけ触りなさいよ」

ナミは柔らかい微笑みを浮かべてふり返った。

ルフィは嬉しそうに笑うと、そっと肩紐を外した。


「好きなだけ撫でたい肩なんだ」

03/12/3

 

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