人命救助
冬の晴れた空は冷たく澄んでいる。
「こっちの方角に島があることはわかってんだから!泳げばそのうち着くわよ黙ってて!」 仰向けのルフィを脇に抱えて、ナミはひたすら泳いでいる。 人間って重い。
「ナミ」 着の身着のまま海に落ちてから、もうどれくらい経っただろうか。
ルフィは呟くように喋った。 「あ、意外でもねぇか。ナミの蹴り食らってゾロ死にかけたもんな」 フフ、と笑う白い息がナミのうなじを暖めた。 「なぁ、手ぇ離せよ」 ナミは濡れてすぐにずれ落ちるメガネを、更に強く押し戻す。 「こっちに島があるってもよ、なーんも見えねーじゃんか」 「・・・・・っは・・・」 ナミの荒い呼吸にメガネは曇ったままだ。 「お前のことだから島までどれくらいかわかってんだろ?」 波はおだやかで、空はどこまでも高く広い。 「うるさい・・・・!」 「さっきっからちっとも進んでないぞ」 ずり落ちたメガネはナミの鼻頭で危うく止まっている。 「・・はっ・・・・・」 「なぁナミ」 ルフィは小さく息を吐く。
「っはぁ」 「手、離せ」 「・・・っはぁ」 「離せ」 「だまりなさいよ!!」
ナミの歯はがちがちと音を立てている。 しばしの睨みあい。
ルフィはゆっくりとした動きで唇を合わせた。 「帽子、あずかってくれ」 ルフィは唇を触れ合わせたまま囁いた。 ナミは肺を酸素で満たすと、固くつむっていた目を開いた。 つばは細かく震えていた。
「代わりにそのメガネくれよ」 「・・バカね」 ナミはいったんうつむいて笑うと、氷のように冷えたメガネをルフィにかけてやった。 「似合うだろ」 ルフィも笑った。
ナミは再び泳ぎはじめた。
2003年ルフィ誕生日企画作品
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