トラウマ

 

 

ルフィと二人で海にいた頃、明日の心配なんてしたことがなかった。




時々ルフィ以外の人間が見えなくなる。


修行の手を一旦止めた時、食後にキッチンでみんなの話を聞くともなしに座っている時。 世界の輪郭がぼんやりとしはじめて、気がつけばはっきりとしているのはルフィだけだ。
実際視界には映っているのだろうが、存在していないように感じる。
全ての感覚がルフィしか受けとめていない時。

俺は思う。


あぁ、自由だ。


深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出す。
ルフィと二人でいると、自分を縛る全てのものから解放されている気がする。
きっと、こいつといれば明日の心配をしなくてもいいからだろう。

食い物がなくなったってどうにかできる。
雨が降ろうが槍が降ろうが、どれだけの敵に囲まれようが、ルフィとなら決して負けない。
どこではぐれたって、いつのまにかルフィが俺を見つけてくれる。
俺はいつだって海に飛び込んでルフィを助けることができる。
明日俺が死んだとしても、ルフィならきっと後悔なんてしない。


俺は自由だ。




メリーの上に座るルフィの横で、月を見上げたまま声を絞り出した。

「ルフィ」

「なんだゾロ?」

「ずっと傍にいてくれ」

「ゾロがずっと傍にいりゃいいじゃねぇか」

「今だけでいいから」

「言ってることめちゃくちゃだぞ?」

「死ぬな」

「頑張る」

「絶対海賊王になれ」

「もちろん」

「俺が死ぬ時は傍にいてくれ」


「ゾロ」


ルフィは月から目を離して、俺の目をひたりと見据えた。

「心配すんな、俺はお前のいないとこで死んだりしねぇ」

「絶対だな」

「絶対だ」

ルフィが自信に溢れた顔で頷いた。


明日なんてどうにかなる、どうにでもなる。
お前のことの他なんて自分でどうにでもできる。
ただお前が俺から離れていくことなんて、想像できない。

だから、自由なルフィを子どもじみた約束で縛る。

そうすりゃ律儀なこいつのことだから、勝手に死んだりしないだろ?

 

04/11/24

 

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