永遠に

 

 

「3を2で割るといくつになるでしょうか?」

諦めたようにナミは言った。

「これが解けたらみかん、あげてもいいわよ」

ナミがみかんの木の手入れをしている間、おこぼれを期待して、まとわりついていたルフィは渋い顔をした。

「おれ、算数苦手なんだよなァ〜」

それを聞いたナミは呆れた顔をしている。

「いくらあんたがバカでもこれぐらい解けるでしょ?」

「…あーと、うー…ん〜??」

渋い顔をしたまま、ルフィは頭を抱えて唸リ出してしまった。

しばらくその様子を見ていたナミは、やっと手入れに専念できる、とまだ小さく黄緑色をした実の様子を見た。

 

「わかったぞ!!」

ナミの肩が大きく揺れた。

「びっくりするじゃない!いきなりなによ」

振り向くと、瞳をキラキラさせたルフィが立っていた。

どうやら答えがわかったようだ。早く言いたくて、足をウズウズさせている。ルフィの目はみかんに釘付けだ。

ナミは、ほとんどみかんをルフィに差し出す格好で答えを待った。

「で?答えは?」

「わかったぞ!答えは、2と1だー!!」

そして、引っ込めた。

ルフィは前のめりに倒れた。

「…なんで答えが2つあるのよ」

「イテテ。だって3を2つに割ったら2と1になるじゃねーか??」

みかん畑の中に、沈黙が舞い降りた。

 

「あんたのバカさ加減には尊敬させられるわね……まあ、そういう考え方もありなのかしら」

「だろー!だからみかんくれよ!!」

二人の会話は噛み合っているようでいて、全然噛み合っていない。ナミは何事か考え込んでいる様子である。

ルフィは、そんなナミの様子に気付いていない。みかんしか目に入ってないようだ。

手に持ったみかんを自分の顔の前に移動させて、ナミは確認するようにゆっくりと言った。

「ねえ、3を2で割ると、2と1になるのよね?」

「おー!」

期待ではちきれんばかりに、元気いっぱいで返事をした。

「それって3人いたら、1人余るってことじゃない?」

「おー?」

段々元気がなくなってきた。というか、質問の意味する所がわからなくなってきた。

 

「もし、私とゾロとあんたが、どうしても2手に分かれなきゃいけなくなった時、どうする?1人になった方が死んじゃうの。これが解けたら、みかんあげてもいいわよ」

気付けば、ルフィの目はもうみかんを見ていなかった。ナミの目をじっと見つめている。

ナミは耐え切れなくなって、視線を足元に落とした。

「やっぱりいい……みかん、あげる」

下を向いたまま、みかんを差し出した。しかし、ルフィは受け取らなかった。

ナミは自分で言ったことに後悔しているように呟いた。

「答えなくていいって言ったでしょ……」

 

「その時にならなきゃわかんねー」

「え?」

顔を上げると、まっすぐなルフィの目とぶつかった。

「その時にならなきゃわかんねー。これが答えだ」

あまりにルフィらしい答えに、拍子抜けしてしまった。それでは答えになっていない。

ぽかんとしていると、ルフィはナミを見つめたまま、その手をみかんごと両手で包んだ。

「こういう考え方もありだって、お前がいったんだろ?」

「うん」

ちょっと違う気もするけど………

ルフィを試すような質問をしてしまったことに気が咎めて、ナミは頷くしかない。

「お前、1人になるのが寂しいんだろ」

「…うん」

「その時が来るまで、おれがお前の手を握ってるから」

「…ん」

「それでいいな?」

 

でも、私はあなたの手を絶対に離さないわ。

 

 

 

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