1年中が、誕生日
カーーーンッ・・・!!
ガランッ
ゾロはわき腹を押さえると、がくっと膝を折った。 「だ、大丈夫か!?」 チョッパーが慌ててゾロに駆け寄ろうとしたが、ゾロの視線に気圧され途中でぴたりと足を止める。 「ゾロ・・・」 「ルフィ、嘘だろ・・」 跪いたゾロを前に呆然と彼の名前を呟いたのはルフィ。
ゾロの誕生日である今日、昨日の夜から落ち着きのなかった船長は目が覚めて日付が変わっていることに気付くや否や、まだ眠っていたゾロをたたき起こしてこう言った。
昨日から予想できていたことだが、実際に目の前でルフィに祝われるとなんだか面映い。
よく見ると(見なくとも)、ルフィは手ぶらでそこに立っている。
「・・おい、まさかお前、おれからプレゼント貰おうとか思ってんじゃねぇだろうな?」 「くれんのか?」 「なんでおれがやらなきゃいけねぇんだよ!?」 「だからぁ、おれがプレゼントやるよ!」 ルフィは満面の笑顔でそう言うと、両腕を大きく広げた。
つまりお前がプレゼントだということか?
それならそうと早く言ってくれよベイベ。 ゾロが鼓動をはやらせ軽くトリップしている間に、ルフィはゾロの寝床から刀を取り出して男部屋を出ようとしていた。
ゾロは、剣道の試合で敵を倒し面を取った後の少年のような満面爽快ある意味有り得ない笑みを浮かべて、まだ暖かいベッドを親指で指し示したが、ルフィは冷静に言った。 「まだ寝るのかゾロ。じゃあプレゼントはナシに」
「おれからのプレゼントは『修行』だ!」 まだ太陽の昇りきらない時間、ルフィとゾロは向かい合って甲板に立った。 「は?」 「だってゾロ修行が好きなんだろ?だからおれが修行してやる!」 ルフィは雪走を危うげに構えてびしっと言い放った。
ルフィにしては気の利いたプレゼントなのかもしれない。 こいつが刀を扱えないことは魚人との闘いで知っているが、一日ルフィを独占できると考えればどんなアクシデントにだって耐えられる。
惨敗。 惨めな敗者と書いて惨敗。 ルフィの伸びる体独特の新たな剣技の誕生を、ゾロは見た。 衝撃で和道一文字は空高く舞い、甲板へと墜落した。 そして雪走がそっとゾロの咽元に突きつけられる。
ルフィは悲しそうにぽつりともらした。
「最低な人間・・・!!」 ひどく衝撃を受けているゾロに、ルフィはくるりと背中を向けた。 明らかに途中からゾロに対する発言ではなくなっていたこと、サンジがおれのメシはいつでもウマイんだよ!とルフィにお玉を投げつけたことなどに、ゾロは全く気づいていない。
もう二度と敗けないと、強く誓った記憶が蘇る。
「つかもう腹切れてることに気付けよ」 ウソップは血の噴出すゾロのわき腹に配慮した、ソフトな突っ込みを入れた。 しかしそのまま足を進めようとしたルフィを見て、ついにゾロはぶわっと涙を溢れさせ立ったままおろおろと叫びだした。 「心から深く謝罪申しあげますぅ!すいませんでしたすいませんホントごめんなさい!だからお願いします僕をこの船から追い出さないでください一生懸命修行しますからお願いしますお願いしますぅ・・・!!」
もう見ていられないのか、ウソップはそっと目を伏せた。 そして涙と鼻水によって声を掠れさせながらのゾロの必死の嘆願に、ルフィはふり返るとにっこり笑って答えた。
「待て待て待て」 船から飛び降りようとするゾロを、ウソップとサンジは全力で押し留めた。 「もうおれ生きてちゃ駄目なんだよぉ!海の底で魚につつかれたり水吸いまくってぶよぶよなドラエモ○になるしかねぇんだよぉ・・!!」
どっぱーーんっ ざぶざぼぶくぶくぶくぶく・・・・・
「あいつ、幸せそうな顔してたな・・」 「そだな、すっげぇイイ顔してたな・・・」 サンジは目を細めて煙草の煙を吐き出した。 今日もいい天気になりそうだ、朝からこんなにも太陽が眩しい。 「もうメシにすんぞ、レディー達を呼んできてくれ」 「おぅ!早く食いたくてしょうがなかったぜ」 「ははっ、てめぇに言われても嬉しくねぇよ」 しかしサンジは満更でもなさそうに照れた笑いを浮かべている。
「何やってんだてめぇら!?今日の主役はおれだろ!?大剣豪アンド海賊王を娶ることを夢見る純なロロノア・ゾロ君(19)だろ!!?なんでいきなり話の趣旨変わってんだよ!!」 「っんだよいいとこで邪魔しやがって!」 「大体海に入ってぶよぶよなドラ○モンになるんじゃなかったのかよゾロ?」
「サンジお前、まーだゾロにフィルターかかってんだな。早くなくした方がいいぞ」 「未来の史上最強大剣豪の嫁になる史上最高に可愛い海賊王はどこだ!!?」
サンジの答えを聞く前に、ゾロは走り出していた。
「ルフィイィィ!!」 「お〜、どうしたゾロ、頭からワカメ生えてるぞ?」 ルフィは口をもぐつかせながらにっこり笑ってゾロの頭を指差した。
「おれ、生きてていいのか・・・?」 「な〜に言ってんだ?ゾロに死なれたらおれが困るだろ、お前おもしろいんだもん」 間違いなく今のルフィには後光が射している。 「ルフィ!おれは今日からお前のために生きる!!」 言ったというよりむしろシャウトした。
「はい!ありがとうございましたぁ!」 ルフィはゾロの頭をあやすように軽く叩くと、向かいの椅子を指差した。 「んじゃメシ食うのに邪魔だからあっち行けゾロ」 「はーい!」
「すいませんレディー、おれにはなんのことだかさっぱりわかりません」 後ろから見ていたロビンがなんとなく発した疑問をサンジは笑顔でかわしたが、ナミがうんざりした様子で答えた。 「ゾロが幸せならなんでもいいの!今日はゾロの誕生日なんだから」 「そう、とっても幸せそうね剣士さん」 「ほんとに・・・・」
「そうね・・・」 「では毎日おめでとうと言うべきかしら」 「・・・そうしてやって。ルフィがいるだけで毎日がバラ色のゾロには、ぴったりな言葉だわ」
03/11/16
どこかに計5個、くだらない挿絵へのリンクが貼ってあります |