授業風景

 

 

「こんな問題もわかんねぇのかよ、ったくこれだからバカは困るぜ」


――ウ・ザ・イ


私の心の中でこっそりと吐き捨てた。

「んだよ言いたいことがあるんならはっきり言えよ」

にやにや笑うなこのエロ大魔王が。いじめっこ。あほ。ばーか。地球が自分中心に回ってるとでも思ってんのかこら?

「こえーからぶつぶつ呟くな !」

私の隣に座っている向日が椅子をずざっと遠ざけながら叫んだ。

「だってむかつくんだもん。つか私がわかんなかった問題をよりによって跡部に答えさせた先生がむかつきます」

「だからって普通に声に出すな!」

向日はあわあわしながら先生と私を交互に見た。


おもしろいな〜。

見てて飽きないし、なんか小動物系の動きをするよねこの人。


どうやら先生には聞こえなかったらしく、向日はほっとため息をつくと机につっぷした。

そして跡部は私に向かって口をぱくつかせると、ようやっと正常に黒板の方を向いた。
こいつ授業が始まってから30分経ってようやく前を向いたよ。


サマサイコウ?」


「そんな長台詞言えるほど口動かしてねぇだろうが!『バカ』つったんだよこのバカ!!」

跡部に聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声で呟いたんだが、しっかりと耳に届いたらしい。
まぁ向日の前に座ってるわけだから聞こえて当たり前か。

「言いたいことがあるならはっきり言えば?」

私はさっき言われた台詞をそっくりそのままお返しした。

「・・・あぁ?言っていいのか ?」

跡部は一瞬何か言い返そうとして止めると、にやりと意地の悪そうな微笑を浮かべて私を見た。
つか顔の距離近いんですけど。その顔は遠くから見てるぶんにはいいけど、近くで見るのは心臓によくないと思いマス。


まったく、こいつは私の負けず嫌いの虫をよく暴走させる。
私がこの手の挑発に乗ってしまうことがわかっているかのようだ。

私は授業中だということを忘れてその誘いに乗りかけた。


「いー加減にしろ。うるさくて聞こえねーんだよてめぇら」


うんざりした表情の向日の後ろから、呆れたような怒っているような声で注意が飛んできた。

 

このクラスで、というかこの学校で跡部に向かって注意ができる生徒はごく限られている。


まずは忍足だが、この関西人は基本的に傍観をしていることが多く、よほどの事態になるまで静かに状況を見つめている。
冷静に状況を判断しているように見えて、時々楽しそうに目を細めているところを発見したことがあるので、私の要注意人物リストの1位がこいつだ。
今も、私の後ろで楽しそうに目を細めていたに違いない。

次に向日。
注意はするが、跡部に無視されることが多い。
むしろ向日が注意したことで事態が悪化したりもするので全く当てにならない。

芥川は問題外。
跡部に対して結構な発言権を持つらしいが、それを発動させているところを見たことがない。


そして最後がこの人、宍戸亮だ。

基本的に無口で無表情。何を考えているかわからないところが多いが、この5人組の中では最も良識派なようだ。

ただ髪型がちょっと・・・。

この長い髪がいただけない。
似合ってはいるしかっこいいのだが・・、なんとなく男の長髪には抵抗を感じてしまう。
忍足くらいなら平気なんだけど。

「何じろじろ見てんだ 、とっとと前向け。だから問題が解けねぇんだよ。激ダサ」


あとこいつ、ムカツキます。
かっこいいってのは撤回しとこう。


「どうもありがとう宍戸」

私はにっこりと笑顔で応えた。

「おう・・・?」

心当たりのない礼にも律儀に応える青少年宍戸、その隙を奴は逃さなかった。


「お前が授業聞こうが聞くまいが結果は変わんねーよ宍戸、何しろこないだの小テスト3点だったもんな」


ナイスタイミング跡部。

でも、クラスの大半の耳がこちらを向いている状態でそれは、ちょっと可哀想。
やっぱり性格最悪だわこいつ。

「え?100点満点で3点?それはやばいって人の心配してる場合じゃないよ宍戸!私のことはいいから、自分のことに集中して、ね?」

とか思いつつ、跡部に加担してしまう自分もどうなのかと思うが、つい癖で乗ってしまった。


「んなわけあるか!10点満点中だ!!」


宍戸は顔を赤くして叫んだ。

クラス中に響き渡る大声で。


「・・・・んぁ?」

忍足の隣の列で、すやすやと眠っていた芥川が目を覚ました。
すごいじゃん宍戸。あの芥川を起こすなんて相当なもんだよ?

「宍戸、もう今日はゆっくり休みや・・・」

ちょっぴり白くなった宍戸の肩を、隣の席の忍足はそっと叩いた。

でも顔がひきつっちゃってますよ、笑いで。

 

 

可哀想なノート達。
今日も何も書かれることなく真っ白なままで終わったよ・・・。

こうして私は、またもや授業をまともに受けることが出来ずに6時間目の終了のチャイムを聞いたのだった。

 

 

 


back  03/8/27