まどろみ
机の上は暖かくて、まるで私を眠りに誘うかのように目の前にある。
腕を組んでその上にあごを乗せてみる。
最高。
もう、このまま寝るっきゃない。
今日はめずらしく跡部も絡んでこないし。
斜め右前を伺うと、どうも真面目に授業を受けてはいないようだ。
だって部誌っぽいノートを開いてるのが見えてる。
後ろの軍団も、横の向日も静か。
じゃあ寝よう――
そーいえば、この席決めの時もすごかったなぁ。
寝ようと顔を腕にくっつけて右を向いたら、私と同じようにしてこちらを向いて寝ているジローがいた。
私のクラスは女子より男子の数が一人多くて、一番廊下側の列の一番後ろの席は男子が隣同士になる。
私はその前の席に。
そして私の斜め右後ろに宍戸、隣が向日になった。
ここまでは普通に席替えで決まったのだが、ここからがひどかった。
宍戸の隣、私の後ろの席の人がたまたま目の悪い人で、前の席でないと見えないと言い出した。
そしてどう交渉したのかは知らないが、その席には私と同じに眼鏡を掛けた忍足が来た。
お前目が悪いから眼鏡してんじゃないのか?
あ、だから眼鏡してれば大丈夫なのか。
その忍足に連れてこられたのがジローで忍足の隣の列、少し離れたお隣、に座っている。
最後は跡部だ。
ここまでテニス部が揃ったら逆にこいつがいないと変なのは確かだけど、囲まれてしまう私からしたらこいつだけは勘弁してほしかった。
道徳の時間以降、なぜかテニス部の面々は私に構うようになった。
今までは一度も話したこともない、その上私が嫌そうにしても平気で話しかけてくる。
でも楽しいことこの上ない。
こいつらはみんないい奴ばっかりで、跡部にしたってむかつくけど、結構優しかったりする。
宍戸だって無口で無愛想だけど、さりげなく私のことを気にかけてくれる。
なにより全然楽しくない学校生活が一変した。
周りの女子達からの風当たりは強いけど、それに負けるつもりはない。
今の状況をとことん楽しんでやる。
この愉快なテニス部員達を手放すつもりはないのだ。
私の斜め右前にどかっと荷物を置いて、隣の女の子が顔を赤らめて挨拶するのも無視をして、後ろをふり返った跡部はこう言った。
「楽しくなりそうだな、あぁ?」
そして私に向かってにやりと笑うと、姿勢を元に戻した。
実際その通りになったので今はなんとも言えないが、私は目立ちまくるこいつらが苦手だった。
歩くたびにきゃあきゃあ言われるし、本人達もそれをわかっていて目立ちたがる。
静かな生活を送りたい私からすれば、ありえないと思うようなことばかりする。
それは、つまり私の価値観を変えるのには十分な出来事だった。
話すようになって更にそれは加速した。
自分が変わっていくことがこんなに楽しいとは知らなかった。
「・・・ぉぃ・・・」
「・・おい起きろこのバカ」
頭を叩かれた感触にがばりと顔を上げる。
跡部がこっちを見ていた。
「
すっげーぐっすり寝てたぜ!俺が髪の毛引っ張っても全然起きねぇんだもん」
「ちょっとハゲたらどーすんのさ向日。寝てる人は優しく寝かしとけっての」
隣では向日が嬉しそうにきゃいきゃいしている。
「お前まだ寝るつもりだったのかよ?」
宍戸が呆れた、とばかりにため息をつく。
反論しようと後ろをふり返ったら、にっこり笑う忍足と目が合った。
「次は移動やで、だから優しいオレらが起こしてやったわけや」
「自分で優しいとか言ってるし」
私と宍戸は呆れた目で忍足を見た。
そして忍足の横に視線をスライドさせると、まだ夢の中のジローを見つけた。
「じゃあ心優しい私がジローを起こしてあげようかな」
「も自分で言っちゃってるし!」
「てめぇのどこが心優しいんだか」
「黙れそこの2人」
私は後ろの向日と跡部を一喝してジローの肩をぽんぽんっ、と叩いた。
「お客さーん!終点ですよ!」
「えっ!マジで!!」
がばっと起き上がったジローに、私は堪えきれずに笑ってしまった。
「んなわけないじゃんここは学校だっつの!どんだけ熟睡してたんだ!!」
後ろで他の面々が笑う声が聞こえてくる。
「なーんだ良かった。起こしてくれてありがとね
ちゃん」
騙したというのにジローはにこにこしながら私に礼を言った。
「ジローも起きたし、ほな行きますか」
忍足が教科書を持って立ち上がった。
私もそれにならって立ち上がる。
まだ半分夢の中のジローをひきずるようにして私達は教室を後にした。
私自身、まだ夢の中にいるようにふわふわした気分だ。
みんなが笑ってて、自分も楽しくてあったかい。
「楽しくなったよ跡部」
私は誰にも聞こえないように口の中だけで呟くと、また騒がしい会話の中に入っていった。
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back 03/9/19
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