女の子、男の子

 

 

それから何分が過ぎただろう、たぶん1分も経ってないんだろうが、私には5分くらいに感じられた時間が過ぎて、忍足が立ち上がった。

「もう帰るわ」

私は忍足が私の方を向いてないことがわかると、そっと体の力を抜いて目を開けた。
スカートは思ったよりも肌蹴ていなかったが、それでも片方の太ももがかなり露わになっていた。

大きく伸びをした忍足に声をかける。
なるたけ自然に聞こえるといいけど。


「おぅ、じゃね」

「おぉ。じゃ、明日な」

忍足はそれだけ言うと、さっさっと箱から降りていった。


・・・が、どうもこけたらしく、いてっという声が聞こえた。

「ちょっと大丈夫忍足?テニス部レギュラーなんだからカッコ悪いとこ見せんなよ〜」


「自分、ほんっとつくづくおもろいなぁ・・・」


慌てて下を覗くと、忍足が腰に手を当てて苦笑いしながら立っていた。


「腰打った?だいじょぶ?」

「あぁ、だいじょぶや。軽く打っただけやから」

「それはよかった」

私は心底安心して、ほにゃっと顔を和らげた。


「もし病院に行くようなことになったら状況説明しなきゃいけないとこだったよ」


さん・・、もっとオレのこと心配してや・・・。寂しいわオレ」

実は結構心配したのだが、さっきのこともあって、なんだか照れくさい。


2人で目を合わすと自然に笑いがこみ上げてきて、また大笑いした。

 


結局忍足がこけてくれたおかげで、気まずい雰囲気は吹っ飛んでいってしまった。

「あぁ、さんももう帰りや。オレが送ってったる」

「マジ?流石関西人」

私は鞄に散らかっていたものを全部詰め、下にいる忍足に渡した。

「そこは関係ないやろ」

忍足はまた笑いの波が来たのかくつくつ笑っている。

私は箱の縁にしゃがむと、後ろにそっと足を下ろした。
そのまま壁に顔を向けてずるずると腕が伸びきるまで下りて、そこで手を縁から離して飛び降りるつもりだった。


「まったく、危なっかしゅうて見てられんわ」


腰に手が当たったかと思うと、私は忍足によって抱え上げられていた。

俗に言うお姫様抱っこだ。

でも、そんなに乙女ちっくな状態でもない。

思いっきり伸びてる位置で固定した忍足の手のおかげで上にずりあがってしまったシャツからは私の腹が見えてるし、なにより私がお姫様から程遠い。
それに眼鏡の王子様ってのも微妙だろ。


「忍足力持ち〜!すごい!!」


でもそんなことよりもこっちの方が私の興味を惹いた。

私の体は小さい方だが、それでも40キロ以上ある。
それをこうも軽々持てるとは驚きだ。

「そうか?さん結構軽いで、見た目通りやなぁ」

忍足は王子様スマイルとでも言おうか、いつもよりも優しそうに笑うと、すとんと私を降ろした。


「あのさ、前から言おうと思ってたんだけど、私のことさん付けすんの止めてくんない?なーんかむず痒いんだよな〜」


物は勢いで、私は忍足と向き合った時、言おうか言うまいか悩んでいたことがすらっと出てきた。

「そやなぁ、んじゃ何て呼べばいい?」

「お好きなようにどーぞ。さん付け以外ならちゃんでもなんでもいいよ」

「ふーむ」

忍足はそこでちょっと考えた。
そんでちょっとしてからぽんっと手を打った。


でえーわ。これが一番しっくりくる」


そしてにっこり笑って私を見た。

もオレのこと好きに呼び」

今度は私がちょっと考えた。



忍足侑士。おしたりゆうし。
おっしー、ゆうしー・・・。

おしゆう・・・、ゆうし・・。侑士くん、くんは雰囲気違うな。



「んじゃ侑士で」

「オッケー。んじゃもう日も暮れたし、さっさと帰るで

「おぉ!しっかし男の子に送ってもらう日が来るなんて、私に限って想像もできなかったな〜」

侑士が開けてくれたドアをくぐる。
明るいところから急に暗い室内に入ったので目がしぱしぱする。

そのまま鍵を閉めるために、侑士は私に背中を向けた。


「・・あのなぁ、。自分、十分女の子やで?」


室内に入ったせいか、その声は嫌に響いた。

「自分ではそんなことないゆうかもしれんけど、オレ達から見たら立派な可愛い女の子や」

侑士はくるりとふり返ると、真剣な顔で私を見た。


「そこんとこ、よく覚えとき」


私は雰囲気に押されて頷くことしかできなかった。

いつもの軽い空気はどこへやら。
その瞳の力強さは、これから侑士が間違いなく男になることを告げている。

もう男への階段なんて2段も3段も昇っているに違いない。

やっぱり男の子なんだこいつも。

 

「・・ご忠告どーも」

「ついでにも一つ言っとくとな」

侑士はいつもの意地の悪い顔で笑った。


「オレも立派な男の子やで」


私は今度こそあっけにとられてしまった。
少しして搾り出した声も、変に掠れて弱々しくて自分でびっくりした。

「・・・んなこた知ってるよ」

「そうか?案外わかってへんよは」

「だまれ関西人。とっとと帰るぞ!」

私はなんだか顔が熱くて、急いで侑士に背を向けて階段を駆け下りた。


こいつの前で二度と隙を見せるもんか、と心に誓いながら。

 

 

 


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