雨降って

 

 

で、気張って弁当作って来た日に限ってこれ。

私は、私の前ではたはたとはためいているスカート3枚を見上げながら、心の中でため息を吐いた。

 

4時間目は男子と女子が別々に授業をしたので、早めに終わった私は大きな弁当箱を膝に乗せてぼんやりと空を見ていた。
近頃だいぶ暑くなってきた。そろそろ夏に突入か。
やっぱり屋上から見る空は最高だな、なんて思いながら。

しかしいい加減お腹が空いたのと、5時間目は体育で早めに食べ終えたい私は、さっさと弁当を食べることにした。


その時、いつもならがやがやとした空気で開けられる屋上のドアが、重い空気と共にゆっくりと開けられた。
私が一人で座っているのを見て、明らかにほっとした顔になった女の子はもう2人を引き連れてずかずかと私の前まで歩いてきていきなり喋りだした。

ね?」

違うと言いたい。

「ちょっと話があるんだけど」

いや、私は聞きたいことなんて何一つないんだけど。

私は想像はしていたものの、いきなり現れた女の子達を呆然と見上げることしか出来なかった。
どーしてこーゆー時に限って来ないんだあいつら!


「聞いてんのあんた!?」

ぼんやりと見上げるだけで全く反応を示さない私にイラついたのか、私を囲むようにして右横に立っていた女の子が軽く私の腕を蹴った。

「いっ・・・」

私はこれまたびっくりして、その子をまじまじと見てしまった。
女の子自身もそんな自分に驚いているのか、ちょっと気まずそうに目を逸らした。


なんだ、なんなんだこの人達は。

私の頭は完全にフリーズして何も考えられなくなっていた。

「返事くらいしなさいよ!」

そして、その女の子に勇気づけられたかのように、今度は私の左横にいる女の子が私の腕を蹴ってきた。
しかも、さっきよりも格段に強い力で。

反動で私の手から弁当箱が転げ落ちる。


べちゃっ


あー、向日の大好物の特製巨大玉子焼きが・・・・。
今日はかなり気合入れてでっかくでっかく焼いたのに!!

私は痛みがびりりと走った左腕を庇いながら、必死で声を出さないようにした。

その子を睨みつけると、その子はにやにやと笑いながら私を見下ろしている。

「いい気になってるからよ」


すっくと、自然と私の足は立ち上がっていた。
3人の女の子はびっくりした顔で私を見ている。

私はまず右横にいる女の子に向き直ると、がばっとスカートをめくり上げた。

「なっ・・・!!」


白!おばはんパンツ!ださっ!!


そしてまだ驚いている正面の女の子のスカートも流れ作業の勢いでめくり上げる。

「っきゃあー!!」


白にピンクのチェック!
顔に似合わねー柄履くな!!


慌ててスカートを押さえてしゃがみこむ2人はおもしろいほどうろたえていた。

しょせんお嬢様学校の女の子達、この手のいたずらには弱いわけか。

私はというと、侑士との1件以来ジャージを履くようにしている。

この学校でスカートの下にジャージを履く、ということはどうも非常識、かつダサイらしく誰もしていないおかげで目立っているが、効率性重視なのであまり気にしないことにした。昼だけだし。


そして最後は――お前だ!!
人の腕、力いっぱい蹴りやがって、ただで済むとでも思ってんのか!?

私は目に思いっきり言葉を込めて睨みつけたやった。


「ひっ・・・」

女の子は全力で走り出した。
獲物を追う動物のように、私の体も自然と走り出す。

背中がぐんぐんと近づいて、手を伸ばしてその子のシャツを思いっきり引っ張った。

「きゃーー!」

勢いよく転倒したその子を踏まないように体勢を整えると、私はその子の足元にしゃがみこんでスカートの端を握った。

「ふふっ」

私はなぜか笑ってしまった。
体中かうずうずして、笑いたくてたまらない気分だ。


さーて、この子は何柄かな?


転倒したまま這いずって逃げようとする子のスカートを問答無用でめくり上げようとした時、とても冷静な声が聞こえた。



、何やってんだお前」


ふり返ると、ドアのところに宍戸が立っていた。
長い髪が風になびくのを自然な仕草でかき上げる。

後ろには知らない顔の、背の高い男子がおろおろしながら立っている。
宍戸より背の高い人とはめずらしい。

そして、私の頭は何故か二度目のフリーズを迎えた。

さっきまでの高揚感がすごい勢いで引いていくのを感じる。


さんがいきなり・・・!!」

一番初めにスカートをめくった子が、半泣きになりながら宍戸に叫んだ。

あんた達まだへたりこんでたんかい。


「いきなり?」


宍戸はドアのところから動かないままその子を見つめた。
しゃがみこむ女の子2人、宍戸ともう一人の男子、そして私と倒れてる女の子は、線で結ぶとちょうど正三角形のようになっている。

そして私が宍戸の方を向いて立ち上がった瞬間に、私の前で倒れていた女の子は急いで宍戸の方へと駆けていった。

「あの子、いきなり私達のスカートめくりだして・・・!私達話をしようとしただけなのに・・・」

かぼそい泣き声の訴えが響く。
言いながら真っ赤になってるし、まぁ宍戸のファンじゃないとしても当然の反応か。

「スカートォ?」

宍戸は呆れた顔で私を見た。


宍戸、いきなりそんなことする変態がどこにいるのさ。


私は頭の中で呟く。
思いっきり叫んでやりたいのに、声にならない。

「で、。なんでお前はそんな射殺すみたいな目で俺を見てんだ」


知るか。普通に見てるだけだよ。

宍戸はまた呆れたようにため息を吐くと、後ろの男子に何か言ってから私の方へ歩いてきた。

「こいつらの言うことが本当なら、思った以上にイカれてんぞお前」

私はいつのまにか浅くなっていた呼吸に気づいて、深く息を吸い込んで口を開こうとしたが、薄く開いた唇からはどんな言葉も出てこなかった。
宍戸が少しづつ視界の中で大きくなるのをじっとまばたきもせずに見つめる。

?」

私の様子に異常を感じたのか、呆れ顔が心配そうな表情に変わる。
宍戸は私の前に着くと、一回額を掻いてから優しい声で聞いた。

「何があった?」