本気と書いて、マジと読む
「しまった!シャツ忘れちった!」 今日も綺麗にくるりとカールしている髪を弾ませながら、3年6組のアイドル菊丸英二は鞄の中身を全てぶちまけた後、そう叫びました。 「どうしよう、今日は体育もなかったからTシャツもないし・・。ここは素ジャージしかないか・・・!」 そして素早く服を脱ぐと、素肌の上にそのままジャージを着ました。 「どーよ不二!いけそう?」 英二はくるりと隣に居た不二を振り返ると、ジャージのジッパーを出来る限り上まであげ、襟をぴんと立てて見せました。 「う〜ん、どうかなぁ・・・」 不二は可愛らしく首を捻りました。 「うん!ばっちり!今日も張り切ってこー!!」 不二の言う事をはなから気にしていない英二は、さっさと部室を出て行ってしまいました。
そう言った不二の顔はとてもにこやかなものでしたが、もし手塚がその顔を見たのなら、眉間のしわが確実に二本は増えそうなものでありました。
各自で準備運動を済ませると、部員全員での走り込みが始まります。 レギュラー以外の部員が全員脱落した時、悪夢の蓋が切って落とされました。
しんがりを走る不二がにこやかに話し始めました。 「なんだい、不二?」 集団の中ほどを走る大石が、これまたにこやかに答えます。 「残り三周になったらしりとりしない?」 これにはトップを走る手塚以外の全員が、驚き、もしくは呆れの表情を返しました。
例えば呆れ顔組の面子はというと。 「・・何言ってんすか先輩?」 「どうしちゃったんだ不二・・(おろおろ)」 「フシュ〜・・・」
そしてこちらは驚き顔組。 「いいデータが取れそうだな」 「やるにゃやるにゃ!」 「しりとり?嫌な予感が・・、いっ、胃が痛い・・・」 「いっすねやりましょう!罰ゲームはもちろんありっすよね!?」
「待て、不二」
こちらは二十四時間いつでもどこでも無表情組(というか一人)の手塚部長。 「部活中に遊ぶなど言語道断。休憩中ならまだしも、今はランニング中だぞ!」 見る者を圧倒する迫力でのたまいます。 「手塚、ランニング中にしりとりをやるという事が僕らにとっていかに有意義な事か、君には分からないの?」 「――どういう事だ?」 聞き返した時点で罠に嵌まったも同然です。 「まずしりとりについてだけど、その名の由来について何か知ってる?」
データマン乾はここぞとばかりにその博識を披露しようとしますが、 「君じゃなくて手塚に聞いてるんだよ」 の一声で黙ってしまいました。 不二の声のトーンがいつもよりも格段に低いような気がするのは何故でしょうか?
「やっぱりね。じゃあ説明するけど、言葉の『しり』を『取って』繋げるゲームだから『しりとり』って言う説があるよね。もっともらしいけど、これは真実じゃない」 やっぱりね、に少々むっとした手塚ですが、話の続きが気になるので止めはしません。 「俺の知らないデータだと・・!?」 「何だそりゃ!」 英二とリョーマがハモリます。 「「真実って?」」 「本当はね、人間のお尻を切り落とす恐ろしいゲームなんだよ。昔のしりとりは言葉遊びなんかじゃない、言葉の戦いだった。精神を集中させる為裸になり、座る事も許されず、各々の持てる限りの知識と体力を総動員して言葉を戦わせる。三日三晩寝食せずに戦った例もある」 不二は淡々と説明します。 「初めて知った!」 「フシュ〜・・!」 「すっげー不二!何でそんな事知ってんの!?」 集団からは感嘆の声があがりました。
まだ許可もしていないのにルールを話し始めた不二を、心なしか青い顔の手塚と大石が見つめます。
先程の文に「おや?」と思われた方、ちゃんと読んでますね。 さすが天才抜かりはありません。
男乾貞治、やる気満々です。 「そうだね・・、名前五十音順は?乾、英二、越前、大石、海堂、河村、不二、部長、桃城 の順だよ」 「にゃんでオレだけ名前!?」 そんな事を言ったら英二君、手塚なんて名前ですらありません。 彼は既に、何かを悟ったような、諦めたかのような表情をしていました。 「スタートは次のコーナーから。もちろん競争だから全速力で走ってね」 不二氏、にこやかにカン無視です。
「ぶ、部長!」 手塚の肩がピクリと反応しました。 「う、う・・・」 リョーマはスキップのせいで余計リーチの差が開き、みるみるビリになってしまいました。 うどん、ウコン、ウラン・・!?そーだ、今日習った・・ 「うかんむりー!!」 既にリョーマは、叫ばなければ声が届かないほど集団と距離が開いていました。 「りんご!」 「ごま・・!」 健康に良さそうな物が続きます。 「ま、松葉杖!」 不二は、まるで自分の番に「え」が来ることを知っていたとしか思えない素早さで答えました。
しかし流石は部長、走り疲れて脳に酸素の足りない状態でも、三秒で答えを叩き出しました。 「X=1、またはX=4だ!」 「残念はずれ!最後の文字は『は』だったんだから『は』から始まらないと!手塚は次の自分の番までスキップね。じゃ桃、『は』からだよ!」 哀れ手塚、不二の策にまんまと嵌まってしまいました。 しかしこれしきの事で諦めるようでは、青学テニス部部長は務まりません。 「ぎゃあっ!?コエー!!」 「ありえねぇだろ!?ありえねぇよー!!」
「烈火!」 「か、か、カレー!?」 遂に混乱ここに極まれりです。 「Re,Requiem!!」 「おい!英語ってありなのか!?」 大石は先頭をひた走る不二に向かって叫びました。 「も・ち・ろ・ん、だよ大石」
そう本能的に感じ取った大石は、即座に頭を切り替えました。 「『ム』、『む』だな!?あーっと・・・!」 大石の頭に何かが浮かびそうになった、正にその時、 「『M』から始まる英単語もありだよ?」 と不二が爽やかに助言しました。 「えむ?」 あぁ悲しき、受験生。Mから始まる単語を探し始めてしまいました。 はっと気付けば集団(徐手塚)からすっかり引き離されています。 「やっやられた!くそっ、む、○ーミン!ってあぁ!?」 大石の悲鳴が秋の空に響き渡りました。 哀れ犠牲者第二号。
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