低気圧
少し風の強い日に、ナミは手すりにもたれて冷たい風が海を撫でるのを見ていた。 細かい波がいくつもいくつも出来て、水平線の向こうへ消えていった。 気圧を肌で感じるナミは天気に気分を左右されやすい。 ナミは後ろから近づいてくるルフィの気配を感じて嬉しい反面、鬱陶しさを感じて頬杖をついた。低気圧は空から身体を押しつぶすように迫ってきていた。 ルフィが風を切るスピードで近づいてくるのを感じる。 「あんた、私のこと好きなんでしょう」 振り返らないで聞いてみる。すぐ後ろにいるのがわかっていたから。 「オレはお前のことが好きだ」 ルフィが言った。 幸か不幸か、私は言葉というものを信じないので。言葉なんて信じられない、と思う。 ルフィが足音を忍ばせて、そっとナミの横に立つ。 「飛んでいってしまったりしないで」 呟いた声も風に千切れてしまって。 「飛んでいったりしない」 言ったルフィが、どんな顔をしているのか確かめるのも嫌になってしまう。 幸か不幸か、ルフィは言葉というものを信じないので。いつだってどんな状況だって、お構いなしに言葉を超えて来てしまう。ナミは抱き寄せられたルフィの腕の中で思う。 言葉なんて信じられない。 少しは抵抗してみせたくて、ルフィの胸で両手を突っ張ってみるけれど。抵抗に意味なんて少しもないことが分かってしまった。ルフィの腕は強すぎて、熱すぎて。 「離れてしまわないで」 何度も同じ会話を繰り返しているのに、少しも信じることができない。 「離れたりしない」 ルフィはいつも同じ答えを返してくれるのに。
03/9/28→05/5/11改訂
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