赤の残像
この島には、恐ろしい毒を持つ蜂がいるらしい。数少ない生き残りの人々から聞いた話だ。 その蜂に刺されると、数日の間に高熱を発し、苦痛の中で死んでいくしかないのだという。 おれたちが島に上陸する直前に、蜂に刺された時と同じ症状を訴える少年が現れた。 もちろんナミは快く了解し、自分は船に篭るから蜂を退治して来い、とルフィとおれに命じたのだった。 「サンジくんは私たちを守ってね」 ルフィは言われなくても蜂を見つけるつもりだったようだ。さっさと船を降りて森に入っていく。慌てて追いかけると、虫籠と網を持ってキョロキョロしているのが見えた。 「蜂には気をつけろよ」 言ったって聞きやしないことなんて分かっているけれども、あまりに無防備な姿は人を不安にさせる。 藪を掻き分けて進んでいると、何かの羽音が聞こえた気がした。目を凝らして周りの気配を探る。ルフィの肩の辺りで、蜂のような虫が飛んでいるのが見えた。 危うい場面を切り抜けられた安堵に浸る。ところが、蜂の死骸を見たルフィは怒りに満ちた声で叫んだ。 「ゾロ!お前、何やってんだよ!」 「何って…その蜂は危ねーから殺したんだよ」 「ものすげー珍しい蜂だったのに!」 どうやら本気で怒っているらしい。足元を見つめながら握る拳が震えている。 「どわっ!」 頭を下げて避けると、また拳が向かってきた。 「蜂の仇討ちだー!!」 ルフィは叫びながらパンチを繰り返している。 「ちょっと待て!あの蜂はお前を殺そうとしてたんだぞ!?」 「まだ殺してねー!」 何を言ったってルフィは聞き入れないで、ただパンチを繰り返している。 「おれはお前のためにやったんだ!」 始まった時と同じように、突然ルフィのパンチの嵐が止んだ。 「お前がそんなことを言うから、いつか、おれはお前を殺すよ」 その言葉は、これまで感じた安堵と比べようもないほど心地よく身体を包んで、膝の力を抜いてしまった。座り込んでしまうと、頭を持ち上げることすらできなくなった。 身体に力が戻った時には、木々の陰に紛れてルフィの姿は見えなくなっていた。 見下ろした土に滲んで映っているのは、ルフィの残像。
04/2/4→05/5/11改訂
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